コラム

高度経済成長は「日本人の努力の賜物」ではなく「幸運な偶然」だったと認めよう

2022年09月06日(火)17時51分
高度経済成長期

FUJIFOTOS/AFLO

<過去の成功がなぜもたらされたのかを、正しく認識することから「経済再生」を論じないから失敗する。「必然」の成長は過去ではなく、未来にある>

2022年4~6月期のGDP(実質、季節調整済み)は、年率換算でプラス2.2%となり、ようやくコロナ前の水準を超えた。だが、国内で生み出された所得であるGDI(実質)は年率でマイナス1.2%となっており、輸入物価の上昇によって、国民生活が苦しくなっていることを示唆する内容だった。

政府は長年にわたって経済を回復させる処方箋を探ってきたが、うまくいっているとは言い難い。アベノミクス期間中の実質GDPの平均成長率は0.9%だが、大規模な財政出動を繰り返した橋本・小渕政権時代は0.9%、小泉構造改革時代は1.0%、民主党政権時代は1.5%と、どの政権も大差がない。財政、金融、構造改革のいずれも十分な効果を発揮しなかったことが分かる。

多くの日本人は、戦後の高度成長は「必然」だったと考えており、各政権もこれを大前提に経済再生の処方箋を描いてきた。だが、この前提条件が必ずしも成立しないのだとしたらどうだろうか。

安倍晋三元首相は「日本を取り戻す」と主張して首相に就任したが、取り戻すべき過去が「偶然」の産物なのだとすると、考え方を変える必要が出てくる。

戦後日本は「ゼロからのスタート」ではなかった

日本は戦後、ゼロから経済をスタートさせたと言われる。だが、現実問題としてゼロの状態で成長を実現することはできない。製品を製造するためには、生産設備を整え、原材料を輸入する必要があり、そのためには、まずは外貨が必要となる。

戦争によって全てを失った日本には外貨がなく、他の貧しい国と同様、高い金利を払って外国から借金するか、そうでなければ過度なインフレを受け入れるしか経済再生の道はなかった。ところが日本はある偶然から、借金に頼ることなく大量の外貨を獲得することができた。それは朝鮮特需である。

朝鮮戦争の勃発によってアメリカから莫大な注文が入り、日本企業は特需に沸いた。1951年の名目GDPはプラス38%という驚異的な数字だったが、それ以上に大きかったのが、貴重なドルを獲得できたことである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 

ビジネス

ロシアの対中ガス輸出、今年は25%増 欧州市場の穴

ビジネス

ECB、必要なら再び行動の用意=スロバキア中銀総裁

ワールド

ロシア、ウクライナ全土掌握の野心否定 米情報機関の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 10
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story