コラム

東電「13兆円」判決が、日本企業を変える...「不正」「低賃金」体質の改善を促す

2022年07月27日(水)18時22分
東京電力旧経営陣

TORU HANAIーREUTERS

<経営者の個人責任がここまで大きいと明確になったことで、サラリーマン感覚から抜け出せない経営者たちに「改革」を迫ることになった>

東京電力福島第1原子力発電所の事故をめぐる裁判で、東京地裁が旧経営陣4人に対し、東電に13兆3210億円を支払うよう命じる判決を言い渡した。この判決が日本経済に与える影響は大きく、長い目で見れば賃金の上昇にもつながると考えてよいだろう。

東電の裁判と聞くと、原発事故の被害者が賠償請求を行っているとイメージする人も多いだろうが、この裁判全く異なる。旧経営陣が経営者としての義務を怠り(津波の発生が予見できていながら対策を講じなかった)、会社に対して多額の損失を与えたとして、会社への賠償を求めた株主代表訴訟である。

仮に判決が確定した場合、東電の旧経営陣は会社に対して13兆円を支払うことになる。現実に13兆円を支払うことはできないと思われるので、自己破産という形で終了となる可能性が高いが、重要なのは損害が補塡されることではない。経営者が無責任な経営を行った場合、個人責任が追及されることが、司法の場で明確になったことである。

株主と経営者、従業員の関係が曖昧な日本

株式会社というのは所有者(株主)と経営者、従業員を明確に区分し、不特定多数から資金を集めるためにつくられた会社形態である。株式会社にしている以上、経営者は株主からの要請に従い、会社の価値を最大化するよう最善を尽くす義務がある。従業員というのは、経営者から指示を受けて、現場の業務を行う人たちであり、会社の経営に口出しすることはできない代わりに、責任を負う必要もない。

日本ではこうした関係性が曖昧で、株主と経営者、従業員の関係が渾然一体となっており、これが粉飾決算や不正行為、低収益・低賃金、お飾りの社外取締役など、いわゆる無責任体質の元凶になっているとの指摘は多い。日本の経営者は、株主から経営を委託されているという認識が薄く、多くが従業員からの昇格で経営者になるため、サラリーマン感覚から抜け出せないまま経営するケースも少なくない。

こうした指摘を行うと、「日本には日本のやり方がある」というような反論が出てくるのだが、この理屈は成立しない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政権が「麻薬船」攻撃で議会に正当性主張、専門家は

ビジネス

米関税で打撃受けた国との関係強化、ユーロの地位向上

ワールド

トランプ氏、職員解雇やプロジェクト削減を警告 政府

ワールド

インドと中国、5年超ぶりに直行便再開へ 関係改善見
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story