コラム

年金問題「老後に2000万円必要」の不都合な真実

2019年06月17日(月)11時15分

報告書問題で批判される麻生だが、年金だけで暮らせないのは事実 ISSEI KATO-REUTERS

<金融庁の報告書をめぐり「政府の責任放棄」だと批判が殺到。「100年安心」とは何だったのか。日本の年金の現状を解説する>

金融庁が公表した資産形成に関する報告書が波紋を呼んでいる。正式版に先立ち公表された報告書案に「30年で約2000万円が必要」「公的年金だけでは生活水準が低下」「自助の充実」といった記述が盛り込まれていたことから、「政府は責任を放棄するのか」などの批判が殺到。

慌てた金融庁は正式版で年金減額に関する表現を一部変更したが(2000万円についてはそのまま)、麻生金融担当相は、有識者に報告書作成を依頼する立場でありながら(国民に)「誤解と不安」を与えるとしてこれを受理しないという前代未聞の事態となった。

報告書では、各種統計から得られた老後世帯(夫婦世帯)の平均的な収入と支出から収支を計算。ひと月約5万円の赤字になることから30年で約2000万円の貯蓄が必要と結論付けたが、これが大きな批判を浴びた。

あくまで平均値なので、全ての人に当てはまるものではないが、年金収入だけでは暮らせない人が多いのは事実である。2000万円という数字の是非はともかくとして、支出に応じた相応の貯蓄が必要という指摘そのものは間違っていない。

多くの人が衝撃を受けた「年金の減額」も同様である。政府はこれまで明確に年金が減るとは説明してこなかったが、近い将来、年金が減額される可能性が高いことは、各種資料から既に明らかとなっている。

日本の公的年金は自身が積み立てたお金を老後に受け取るのではなく、現役世代から徴収した保険料を高齢者に分配する仕組み(賦課方式)なので、現役世代の人口が減れば高齢者への年金給付額も減ってしまう。

年金は2~3割の減額に

現役世代の人口動態に合わせて給付額を削減する仕組みを「マクロ経済スライド制」と呼ぶが、この制度による年金減額は既に始まっている。2019年度の年金給付額は物価上昇を加味して月額1400円の増額となる予定だったが、制度の発動によって増額分は同227円に抑制された(厚生年金のモデル世帯のケース)。安倍首相は年金は前年から0.1%増えたと説明しているが、あくまで名目上の話である。物価上昇分よりも年金増額分が小さくなるという形で減額が実施されるので、多くの人はその事実に気付かない。

日本の公的年金は財政的に厳しい状況となっており、慢性的な赤字体質だ。現役世代から徴収する保険料の総額(国民年金と厚生年金の合算)は約36兆円だが、高齢者に支払う年金総額は約51兆円にもなる。赤字部分は税金から補塡しており、年間約12兆円が支出されているが、それでも収支は完全ではなく、さらなる不足分は積立金の運用益などで追加補塡を行っているのが現実だ。

ここ数年の株高で積立金の運用は黒字だが、市場はいつ下落に転じるか分からないため、運用益は恒久財源とは見なされていない。インフレリスクについても考慮する必要があるので、株式運用を全否定するわけではないが、市場動向に過度に依存する現在の運用方針には改善の余地がある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ関税の大半が違法、米連邦控訴裁が判断

ビジネス

米国株式市場=反落、デルやエヌビディアなどAI関連

ワールド

米、パレスチナ当局者へのビザ発給拒否 国連総会出席

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、月間では主要通貨に対し2%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    自らの力で「筋肉の扉」を開くために――「なかやまき…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story