コラム

石破ビジョンで日本経済はどうなる?

2018年09月04日(火)12時45分

石破氏の説明は教科書的にほぼ100点満点の内容だが… Yuya Shino-REUTERS

<日本経済の現状についてほぼ完璧に把握しているといってよい石破氏でさえ、それに対する明確な処方箋は示せないという事実>

9月20日に投開票が行われる自民党の総裁選は、安倍晋三首相と石破茂元幹事長の一騎打ちとなった。安倍氏はこれまでの実績を全面的にアピールする一方、石破氏は「いつまでもカンフル剤に頼ることなく、処方箋を考えることが必要」として、アベノミクスとは異なる路線を主張している。

選挙戦は当初から安倍氏が有利とされているが、仮に石破氏が首相となった場合、経済はどのように推移するのだろうか。石破氏が掲げる政策から予想してみた。

石破氏のアベノミクスに対する理解は100点満点

石破氏は総裁選への出馬にあたって、自らの政策である「石破ビジョン」を提唱したほか、7月に「政策至上主義」という著書も出版しており、これらが石破氏の政策の中核となっている。

全体を通じて、石破氏の誠実な人柄がにじみ出ており、政治家としての信念もよく理解できる内容であった。また日本経済の現状に対する石破氏の分析は非常に明晰で、アベノミクスという政策についても、ひょっとすると安倍氏自身よりもよく理解しているのではないかと思えるほど的確な説明を行っている。

石破氏は、アベノミクスについて「大胆な金融緩和と機動的な財政出動という、いわば短期的なカンフル剤によりデフレ脱却を実現し、さらに経済を温めることで時間を稼ぎ、その間に規制改革など経済構造改革を断行して潜在成長率を高め、中長期の成長エンジンに点火するというものです」と述べている。

このような言い方は首相候補の人物に対して失礼かもしれないが、石破氏の説明は教科書的にほぼ100点満点の内容といってよく、自他共に認める政策通であることをあらためて認識させるものであった。

また日本経済の現状についても、アベノミクスの円安によって輸出企業の業績は伸びたものの、実質的に売上高は伸びておらず、その結果として賃金も上がっていないと明瞭に分析。また、失業率が低下している最大の要因は、高齢者の増加と若年層人口の減少であると指摘している。

売上高が増加しない中で企業が利益を上げているのはコストを下げていることが原因であり、コスト削減は短期的には効果があるが、国民の所得が増えないので長期的にはマイナス要因になるという。

この説明についてもまったくその通りであり、付け加える点はない。石破氏は日本経済の現状について、ほぼ完璧に把握しているとみてよいだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

シリアで米兵ら3人死亡、ISの攻撃か トランプ氏が

ワールド

タイ首相、カンボジアとの戦闘継続を表明

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 10
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story