コラム

動き始めた年金支給68歳引き上げ論 これから考えるべき人生設計とは

2018年05月01日(火)14時30分

だが株式投資に振り向けたとしても、根本的な赤字体質が変わるわけではない。しかも、今後は現役世代の人口が減少することから、保険料収入はさらに減少する可能性が高い(今後20年間で現役世代の人口は17%減少する一方、高齢者は8%ほど増加する見込み)。

日本の年金は自分が積み立てた保険料を後で受け取る方式ではなく、現役世代が支払う保険料で高齢者を支える「賦課方式」であり、現役世代から徴収する保険料が下がれば、高齢者への給付も減額せざるを得ない。現役世代の減少に合わせて年金給付を減らすための措置がマクロ経済スライド制とよばれるもので、政府は2004年にすでにこれを導入済みだ。

現役世代の負担をこれ以上、増やすことは不可能

ところが、このマクロ経済スライド制は、まだ1回しか発動されていない。不景気が続き、生活が苦しい人が増えたことから、政府が発動を遅らせてきたのである。だが、いよいよ年金財政が厳しくなってきたことで、近い将来、マクロ経済スライド制が再発動され、年金給付額が減額されるのはほぼ必至の状況となっている。

もしマクロ経済スライド制が発動されれば、生涯に受け取ることができる年金総額そのものが減ってしまう。仮に68歳から受け取ることで月々の受取金額を増やす措置が図られたとしても、総額ベースではやはり減額となってしまうことは十分にありえるだろう。

結局のところ、マクロ経済スライド制によって年金財政が安定するまで、年金の額は減ると考えた方がよい。その水準がいくらまでなのか、あるいは、いつ財政が安定するのかについては、マクロ経済スライド制の発動時期や今後の日本経済の推移によって変わってくる。

年金受給者にとっては厳しい話だが、現役世代の負担をこれ以上増やすことは現実的に難しく、筆者はこの措置はやむを得ないものだと考えている。

政府は、68歳まで年齢を引き上げても年金総額は変わらないといった楽観的な方針を示すのではなく、ギリギリの状況まで追い込まれている年金財政の現状について国民に正直に説明すべきだろう。

こうした現実を受け入れられるのかは国民次第であり、本当の意味で日本人の「民意」が問われる状況といってよい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story