コラム

東芝など日本企業の海外M&Aが失敗しがちなのはなぜか

2017年02月21日(火)15時43分

確かにARMについては、買収価格3.3兆円のうち約30%がプレミアム分であり、割高な投資であることは間違いない。だが、スマホ向けの半導体やIoT(モノのインターネット)の分野におけるARMの存在感は大きく、今後10年、同社のビジネスはほぼ成功が約束されている。次世代産業のカギを握る企業を3兆円で買えるのなら安いものという孫正義社長の感覚も分からなくはない。

ビームも分野こそまったく違うが、全体の構図という点ではARMと共通かもしれない。サントリーが買収する前、2012年12月期におけるビーム社の売上高は約25億ドル(約2580億円)、純利益は3億8000万ドル(約392億円)であった。

買収金額は売上高の6.2倍、利益の41倍であり、単純計算では40年以上経たないと投資金額を回収できないことになる。ただ、酒類の市場は急拡大することはないものの、長期的に安定した成長が見込める。急激に市場が縮小する可能性も低く、時間をかければ投資採算は確保できる。

サントリーとしては世界展開するための足がかりとして同社を買収しており、おそらく短期的な採算は考慮していないだろう。すべてのケースに当てはまるとは限らないが、少なくともソフトバンクやサントリーのようなケースについては、ある程度までなら高い買収価格も許容されそうだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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