コラム

東芝など日本企業の海外M&Aが失敗しがちなのはなぜか

2017年02月21日(火)15時43分

Toru Hanai-REUTERS

<東芝の債務超過の背景には無理な海外M&Aがあった。日本企業による海外の大型M&Aは失敗が多いといわれるが、成否を分けるのは何か>

東芝の米原子力事業の損失が7000億円に達することが明らかとなり、同社は債務超過に陥った。直接の原因は、原発建設プロジェクトのトラブルだが、その背景には、企業体力をオーバーした無理な海外M&A(合併・買収)がある。日本企業による海外の大型M&Aは失敗も多いといわれるが、その原因はどこにあるのだろうか。

日立も三菱地所も海外の大型M&Aに失敗した

東芝は2006年に54億ドル(当時のレートで約6400億円)を投じて米国の原子力企業ウェスチングハウス(WH)を傘下に収めた。しかしWHの事業は予定通りには進まず、業績を拡大するため無理をしてプロジェクトを受注した結果が、今回の損失につながった。

直接的な原因は不採算プロジェクトの遂行だが、高すぎる価格で無理にWHを買収したことが巨額損失の遠因になったことはほぼ間違いない。

【参考記事】東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか?

日本企業はM&Aにあまり慣れておらず、失敗するケースがしばしば見られる。特に海外案件の場合、その傾向が顕著である。

大手電機メーカーの中では比較的良好な経営を維持している日立も、かつては海外M&Aで痛い目にあっている。同社は2002年、米IBM社からハードディスク(HDD)事業を約20億ドル(当時のレートで約2500億円)で買収した。

買収前後からHDDの分野は価格破壊が進み、毎年100億円規模の赤字が発生。日立は2011年に、同事業を米ウェスタン・デジタルに約48億ドル(当時のレートで約3900億円、株式による支払分含む)で売却した。見かけ上、取得コストと売却価格の差額で利益が出ているが、9年間の累積赤字や、工場への追加投資などを含めると採算割れした可能性が高い。

もう少し古いケースでは、三菱地所によるロックフェラーセンターの買収がある。三菱地所は1989年、約2200億円の資金を投じてマンハッタンのロックフェラーセンターを買収した。ところが不動産市況の冷え込みで地価は暴落、最終的に同社はこの物件の大半を米国に売り戻し、約1500億円の特別損失を計上している。

これらのケースに共通するのは、海外ブランド企業の買収だったという点である。なかでもロックフェラーセンターは日本に当てはめれば東京タワーのような存在であり、まさに米国を象徴する不動産だった。当然、こうした案件には高いプレミアムが乗せられることになる。

IBMのHDD部門やWHも同様である。HDDはもともとIBMが開発した製品であり、その後、競合メーカーが多数参入したもののIBMのHDDはトップブランドであった。WHも、今でこそ輝きを失っているが、かつては米国を代表する電機メーカーである。こうした企業が売りに出てくる時には、細心の注意が必要だ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米建設支出、5月は‐0.3% 一戸建て住宅低調で減

ビジネス

ECB追加利下げに時間的猶予、7月据え置き「妥当」

ワールド

米上院、トランプ減税・歳出法案を可決 下院で再採決

ビジネス

米ISM製造業景気指数、6月は49.0 関税背景に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story