コラム

このままでは日本の長時間労働はなくならない

2016年10月17日(月)18時00分

DragonImages-iStock.

<電通の過労自殺問題をきっかけに、長時間労働に関する議論が再燃している。諸外国と比較すると、日本の労働生産性はあまりに低く、企業文化の違いなどで済まされる話ではない。一体どうすればいいのか>

 電通の過労自殺問題をきっかけに、日本人の働き方に関する議論が再燃している。日本において長時間残業が横行しているのは周知の事実だが、これにはムラ社会的な日本企業の組織文化や業界慣行など、様々な要因が関係している可能性が高い。だが共通の背景として存在しているのは、日本経済全体における生産性の低さである。この部分を改善できなければ、抜本的に問題を解決することは難しい。

独仏米の生産性は何と日本の1.6倍

 日本における労働生産性の低さは以前から指摘されているが、最近では、ニュースで取り上げられることも少なくなってきた。だが、ニュースにならないからといって状況が改善したわけではなく、日本の労働生産性は相変わらず低いままだ。

 厚生労働省は9月、2016年版の労働経済白書を公表した。今回の白書における主要なテーマのひとつは労働生産性なのだが、内容はかなり厳しいものであった。

 労働生産性とは、労働によって生み出された生産額を労働投入量で割ったものである。より付加価値の高いモノやサービスをたくさん生産したり、逆に同じ生産量であっても短時間労働で済ませることができれば労働生産性は上昇する。一方、付加価値の低いものばかり生産していたり、労働時間が長かったりすると労働生産性は低下することになる。

 日本は先進諸外国と比較して労働生産性が低いといわれてきたが、白書の内容はそれを裏付けている。日本の実質労働生産性は38.2ドル、これに対して、フランスは60.8ドル、ドイツは60.2ドル、米国は59.1ドルであった。日本の労働生産性は主要先進国の中では最低だった。

 ランクが最下位ということが自体がよくないニュースではあるのだが、それ以上にショッキングなのが、トップ3カ国(仏、独、米)の労働生産性の水準が日本の1.5~1.6倍もあるという現実である。この結果は物価の影響を考慮しない実質値なので、現実の生産性をかなり色濃く反映しているとみてよいだろう(ちなみに名目労働生産性もほぼ同じような結果となっている)。

 ただし、よくよく考えてみれば、いずれの国も1人あたりのGDPは日本よりも高く、このような結果が出てきても驚くような話ではない。

日本は付加価値が低く、かつ長時間労働

 労働生産性に関する議論で決まって出てくるのが「日本はサービスの生産性は低いが、製造業の生産性は高い」という話である。だが、今回の結果を見る限りは、その仮説も当てはまらないようだ。

 日本の製造業における実質労働生産性は35.5ドルだった。製造業については英国よりは上だったものの、フランスは40.9ドル、米国は44.7ドル、ドイツは46.7ドルとかなりの差を付けられている。英国は製造業を完全に捨て去った国であり、フランスも製造業を得意とはしていない。製造業が得意なはずの日本の生産性がフランスより低く、ドイツや米国には到底及ばないという結果も、やはりショッキングである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story