コラム

世界の経済学者の「実験場」となりつつある日本

2016年10月04日(火)16時05分

 当時のチリ経済は、インフレ率が100%を超えるなどかなり厳しい状況にあり、ピノチェト大統領は、フリードマン氏のアドバイスに従い、自由主義的な経済改革を次々と断行した。国営企業の民営化などが強力に推し進められ、競争力のない企業に対しては市場からの撤退が促された。

 その結果、チリは他の南米諸国を上回る安定した経済成長を実現し、チリでの成果は最終的に米国など先進各国の経済政策に生かされることになった。一方で、所得格差が拡大したことなどから、一連の政策を否定的に捉える人や、フリードマン氏の政治的なモラルを問う声も一部にはある。ピノチェト大統領はクーデターで政権の座についた元軍人であり、非民主的な独裁者であったことがその理由である。

 ここでは政策に関する是非は議論しないが、重要なのはフリードマン氏が、自らの説を検証したいという強い知的野心を持っており、本当にそれを遂行したという現実である。

 米国のスター経済学者は、まさに知的エリートであり、非常に魅力的な振る舞いをする一方、こうした冷酷な面も持ち合わせている。安倍首相は、スター経済学者を次々に官邸に呼びアドバイスを求めているが、彼等が喜んで太平洋の反対側まで飛んでくることには理由がある。

 彼等を利用するのか、彼等に利用されるのかは、一種の駆け引きということになるが、日本が直面している現状はゲームにしてはかなり危険な部類に入る。もし日本においてインフレが過度に進む事態となった場合、これを抑制するのは並大抵のことではない。

【参考記事】米経済学者のアドバイスがほとんど誤っている理由

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは154円後半で9カ月ぶり高値、上値

ワールド

世界の石油・ガス需要、50年まで拡大も 気候目標未

ワールド

豪州とインドネシア、新たな安全保障条約に合意

ワールド

EXCLUSIVE-豪中銀、金融政策が制約的か議論
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story