コラム

米ネオコン外交の終わりと日本の矜持

2024年03月30日(土)14時30分
ビクトリア・ヌーランド米国務次官

ヌーランドは米政権に残った最後のネオコンだった CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

<中国、ロシアとのアメリカの過度の対立路線、「新冷戦」は転換点を迎えている>

3月5日、ビクトリア・ヌーランド米国務次官(国務省のナンバー3)が辞意を表明し、ブリンケン国務長官は彼女の長年の勤務に感謝する談話を発表した。欧州のマスコミは、これをアメリカのネオコン外交時代の終わりと評した。

ネオコンとは「新保守主義」の意味だ。2001年9月11日の同時多発テロ事件をきっかけに、「自由と民主主義を世界に広めよう。独裁・権威主義の政権は、力を使ってでも覆そう」という主張がアメリカで強くなる。当時のチェイニー副大統領を筆頭に、ウォルフォウィッツ国防副長官などが主導してイラクに侵攻。その後は03年にジョージア、翌年にウクライナと次々に「レジーム・チェンジ」を仕掛けた。


 

ヌーランドはその生き残りだ。祖父が帝政ロシア時代のモルドバ出身で、ロシアへの根深い敵意を持つ。夫はネオコンのイデオローグとされるロバート・ケーガンでもある。彼女は13年12月、反政府運動で揺れるウクライナの首都キーウを訪問すると(当時は国務次官補)、反政府集会を訪れて激励し、クッキーを配って有名になった。

トランプ時代は野に下っていたが、バイデン時代に返り咲き、副長官代行にまで上り詰める。しかし、何かの事情で彼女がナンバー2の副長官に昇格することはなく、バイデンは昨年11月カート・キャンベル大統領副補佐官を国務副長官に指名。ヌーランドはその後もウクライナを訪問したりしていたが、3月5日に辞意を表明した。

米国務省の対ロシア・タカ派はこれで扇の要を失った。アメリカがウクライナ支援に危険なほど引きずり込まれる可能性は、低下した。9.11以降のネオコン外交時代は終わったとみていいだろう。

中ロとの過度の対立も転換点に

そして、ネオコン外交が引き起こしていたロシア、中国との過度の対立、つまり「新冷戦」の動きも転換点を迎える。対立は続くように見えても、「抑止と協力の使い分け」路線が目立つようになるだろう。

今のアメリカは内向き姿勢で、それは大統領選で誰が勝とうが変わらない。中国はアメリカと力不相応に対立して経済停滞を生んだことを認識し、今はよりを戻したいところだろう。ロシアはウクライナ戦争の帰趨にかかわらず、国力をますます低下させ、ユーラシア北西部でしか力を持たない存在に堕していく。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story