コラム

西側で広まるロシア分裂論の現実味

2023年05月06日(土)11時00分

今回は、ここまで事態が悪化することもあるまい。起こり得るのはせいぜい、モスクワの中央権力の弱体化、地方の権力強化ということになろう。91年のソ連崩壊の直前には、モスクワの権力が真空化するなか、集めた税金を中央に送金しない地方自治体が現れた。なかには首長に「大統領」を名乗らせ、独自の憲法、独自の法制を敷くところもあった。今回も、地方の力が強いインドにも似た、連邦性の強い国家が立ち現れるかもしれない。

このとき、極東諸州は中国に大きく傾斜するか、それとも対中警戒を強めるか。経済的に苦境に陥るモスクワ中央は、日本との北方領土問題解決をカネと引き換えに進めようとするだろうが、地元のサハリン州は強硬に抵抗するだろう。それが90年代前半に起きたことである。

だから「ロシアの分裂」に手を出したり、チャンスだと思って浅はかに動き出すのはやめ、じっと見守るほうがいい。中国が、清の時代にロシアに奪われた沿海地方の奪還に乗り出すかもしれない。

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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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