コラム

ロシアは日本にとっても危険な国なのか? 「極東ロシア」の正しい恐れ方

2022年04月27日(水)10時57分
宗谷海峡付近のロシア軍艦

圧力をかけ続けるが……(宗谷海峡付近を航行するロシア軍艦) RUSSIAN DEFENSE MINISTRY PRESS SERVICEーAP/AFLO

<ウクライナ侵攻後、日本では北方の防衛力強化の議論が盛り上がっているが、中国との関係を含めて極東におけるロシアをどれだけ恐れるべきなのか>

あの街を地表から消し去ってやる──と、ウクライナ攻略を目指すロシア軍司令官はよく口にする。なんと乱暴で、人間の生活と生命を軽視した言葉だろう。

昨年からロシアは、日本列島周辺を中国の軍艦と連れ立って示威航海したり、津軽海峡をこれ見よがしに通過してみせる。4月1日には下院副議長のミロノフが、「ロシアは北海道への主権を有するという専門家もいる」と、日本への嫌みな言葉をツイートしている。

同14日には、日本海の潜水艦から最新式の巡航ミサイル「カリブル」を発射し、核弾頭を搭載すれば東京でも横須賀でも破壊できる能力を誇示した。在日米軍への牽制、そしてウクライナ戦争の隙に日米が極東ロシアに何か「仕掛ける」のを牽制したつもりなのだろう。

「だからロシアは怖いのだ。おそロシア。早急に北方の守りを固めないと日本もウクライナのように侵攻されるかもしれない」ということで、にわかに防衛力強化の議論が巻き起こっている。日本は極東でのロシアの脅威にどのくらい備える必要があるのか、検証してみよう。

極東ロシアは軍事面でも日本より貧弱

まず、極東ロシアは人口が650万人程度で、ロシアにとっての最重要部分ではない。産業は育っておらず、隣接する中国の東北部に比べたら人口は20分の1でGDPの格差はそれ以上だ。陸軍の兵力でも、瀋陽方面の中国陸軍に比べてロシア極東部の陸軍は弱体。

日本と比べても、極東ロシアは経済面だけでなく、軍事的にも貧弱だ。たとえ日本を攻めても、ロシア軍の揚陸作戦能力が乏しいことは、今回ウクライナの黒海岸にほとんど上陸できず、揚陸艦も撃沈されてしまったことから明らかだ。

海軍ではカムチャツカ半島に基地を置く原子力潜水艦が何隻も戦略核ミサイルを抱えてオホーツク海に潜っているが、これはアメリカ向けのもの。海上艦のほうはお粗末で、駆逐艦クラス以上の軍艦は7隻程度しかなく、海上自衛隊の陣容の10分の1程度。日本海岸には海上自衛隊の主要な潜水艦基地があり、数と質でロシア海軍の潜水艦を圧倒する。

しかも有事になるとロシアの艦船は宗谷海峡と津軽海峡は危なくて通れなくなるので、太平洋方面での作戦やウラジオストクから補給を受けるカムチャツカの基地の維持も難しくなる。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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