コラム

「米中冷戦」時代はこうして生き延びよ

2020年08月18日(火)15時39分

対立が激化する米中だが REUTERS/Kevin Lamarque

<米ソ冷戦とは全く異なるリアルな危険を示す対立構造、その本質を理解するための処方箋>

世の中は「米中冷戦」で持ち切りである。米ソ冷戦時のような大人げない世界大分断の時代に逆戻り、というわけだ。

だが、その米ソ冷戦時代に外交官人生を送った筆者にしてみると、米中冷戦と言われてもしっくりこない。東欧などをしっかり抱え込んでいたソ連に比べると、中国の一帯一路など、はかないもの。中国だけに経済と安全保障を依存している国は皆無だから、「中国圏」と言っても実は中国一国だけの話、ということになる。米中冷戦は、世界を分断すると言うよりは、中国をどう抑え込むかということなのだ。

20200825issue_cover200.jpg

筆者にはアメリカの片棒を担ぎたい気持ちもある。中国に古くさい朝貢・冊封関係を強要されるのはごめんだし、日本を中国や香港と同じ専制体制にされるのはもっと困る。日本には中国のような強い政府を望む人もいるが、筆者は経済・言論あらゆる面での自由を選好する。

「対立はいけない」「アメリカも覇権にしがみつくべきでない」と言う人もいるが、米中は聞く耳を持たないので、この対立をどう利用するか、どう対処するかを考えたほうがいい。

確かに、西側と絡まり合っている中国の経済は切り離せない。しかし世界を中国一色にされてしまわないよう、関係を適度に絞ることはできる。例えば、西側企業は工場を中国外に移転しても困ることはもはやない。サプライチェーンは付いてくる。と言いながらも、最近の米政権の中国への出方にも、ついて行き切れないものを感ずる。

第1に、中国が南シナ海を埋め立て、軍事拠点を造るのを看過しておいて今頃騒ぎ立てても遅いのではないか。トランプ大統領は中国たたきを選挙で使っているだけで、再選されれば同盟諸国のほうに牙をむくだろうし、民主党のバイデン候補は副大統領時代、中国への融和姿勢の当事者だった。だから、今アメリカの尻馬に乗って中国をたたいても、大統領選後はその馬が消えてしまうのでは、と思ってしまうのだ。

第2に、自由・民主主義・市場経済の世界を、専制政治と統制経済で脅かす中国から守ろうと呼び掛けられても、今のアメリカは時にあまりにえげつなく、中国とさほど違って見えない。中国は現代の世界での付き合い方を知らない意味でKYだが、アメリカも同盟諸国の信と尊敬を失っていることに気が付かない意味でKYなのである。

第3に、米中が武力対決に至ると日本は難しい立場に置かれる。中国が在日米軍や自衛隊の基地などをミサイルで攻撃してくるほどの冒険はしたくない。

中国との関係は、オール・オア・ナッシングではない。日本の安全、経済を脅かされないよう気を付けながら関係を進めるという、バランス、つまり綱渡りの話なのだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、ETFの売却開始へ信託銀を公募 11月に入札

ワールド

ロシア、元石油王らを刑事捜査 「テロ組織」創設容疑

ビジネス

独ZEW景気期待指数、10月は上昇 市場予想下回る

ワールド

仏予算は楽観的、財政目標は未達の恐れ=独立機関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story