コラム

アメリカの肉食系企業が株主第一主義を悔い改める訳

2019年09月12日(木)17時00分

トランプ大統領は、東部から中西部に広がるラストベルトの困窮白人層の利益を主として代弁してきたが、目立たない形で大企業の利益にも奉仕してきた。2017年の法人税大幅引き下げがそれである。しかし大企業の利便を一方的に図ったままでは、トランプも大統領選で苦戦するだろう。財界に減税の見返りを求めていたとしても不思議はない。

今回の声明はCSRの考え方を米国版経団連が自ら採用した形だが、おそらく大統領選で候補者たちから批判の的にされるのを防ごうとしているのだろう。

しかし利益至上主義でない企業は、動物を襲わないライオンと同じく不自然な存在だ。まともに実行すれば米企業の利益率も株価も低下する。アメリカは日本も含め、他国の企業がそこを出し抜くことがないよう米企業と同様のガイドラインを採択するよう圧力をかけてくるだろう。

またヘッジファンドや年金基金など、カネが余ってしょうがない組織は、米国株を見限って、利益率は低くとも安定している日本企業の株に投資してくるかもしれないし、原油や土地への投機を増やす可能性もある。

米企業の新たな動きは、企業が社会の共有資産的なもの、つまり儲からないものに変質していく予兆かもしれない。これでは、アニマルスピリットを持つ人材は企業に行かなくなるだろう。経済の管理はAI(人工知能)とテクノクラート、生産はロボットが担当する。アニマルスピリットは、スポーツや街中でのけんかで発散――そんな時代が来るのだろうか。

<本誌2019年9月17日号掲載>

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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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