コラム

「やっかいな隣人」韓国のトリセツ

2019年02月14日(木)16時30分

「国軍の日」式典に出席した韓国の文在寅大統領(首都ソウル、18年10月) AHN YOUNG-JOON-POOL-REUTERS

<南北接近で日米韓の連携が崩れる時代――パワーポリティクスの東アジアを生き延びる術>

日韓の関係は、浮き沈みを繰り返すもの。98年からの韓国での日本文化「解禁」、02年のサッカー・ワールドカップ共同開催や、その後の日本での韓流ブームなどは、いつも慰安婦や竹島(韓国名・独島)問題で暗転してきた。今度は「徴用工」補償問題や韓国海軍のレーダー照射事件で悪化している。

今や韓国国民の7人に1人に当たる年間700万人以上が日本を観光し、韓国の電機・自動車生産には日本から輸入した部品は不可欠という時代だ。だが今年は日中韓首脳会談や、6月に大阪で行われる20カ国・地域(G20)首脳会議への文在寅(ムン・ジェイン)大統領の参加にも黄信号がともりかねない。

日韓両国民は、国を挙げて日夜相手を呪っているわけではない。だが韓国で何か反日の動きがあると、あるいは逆に日本で反韓の動きがあると、「相手は国を挙げて反日、反韓を仕掛けてきた」と思い込む。それに相手の首脳の顔を重ね合わせて、反発の応酬で盛り上がっていく。韓国の野党勢力は日本に来て、「全て文大統領のせい」とささやいては帰っていく。日本で文批判を燃え上がらせて、足を引っ張ろうという算段だろう。

日韓関係が小康状態のときでさえ、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)のように元慰安婦のための粘り強い運動を展開する人たちは、慰安婦像を世界中で設置し続ける。それを、韓国政府はいかんともし難い。

また80年代に学生として反米・反日的な民主化運動に身を投じ、全斗煥(チョン・ドゥファン)政権に投獄された経験を持つ「386世代」は今、与党を担うエリートとなり、特に裁判所など司法界で強い力を持つ。今回の徴用工についての賠償要求認定判決も、そうした勢力の意向を反映したもので、韓国政府はむしろ扱いに頭を悩ませている。

日韓併合時代に日本側がやったことで、行き過ぎはあったかもしれない。それは65年の日韓基本条約締結で法的に整理され、政府間で賠償請求権を互いに放棄している。韓国政府は国内の反日運動を抑え切れなくなると、「日本はすぐ法律や条約を持ち出すが、これは政治問題なのでもう少し韓国内の声に配慮してほしい」と言う。

だが日本は現在価格で17兆円とも評価される戦前の資産を朝鮮半島全域にわたって無償で放棄。さらに当時の韓国の国家予算の2倍以上に相当する経済援助を行った。日本にこれ以上負担を強いて、首相に何度も謝罪をさせることには賛成できない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中マドリード協議2日目へ、TikTok巡り「合意

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界

ワールド

トランプ氏、首都ワシントンに国家非常事態宣言と表明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story