コラム

シリア内戦の最終局面 停戦のカギを握るのは「トルコ」だ

2018年10月14日(日)11時05分

17年7月には解放機構に入っていた2組織が離脱して、トルコ政権寄りの動きを取り、現在、2組織とも国民戦線に参加している。トルコとしては今回の合意を契機として、解放機構の国内組を離脱させることで、アサド政権軍に対して現地での対抗力を維持しようとする狙いもあるだろう。停戦が継続するとすれば、アサド政権軍の攻撃の口実を封じるため、解放機構が組織として解消する可能性も出てくる。

一方で合意に従わない解放機構の国外メンバーやフッラース・ディーンについては、政治的、軍事的に圧力をかけ、孤立させながら、イドリブから退去させる方法が停戦を維持するためには最良の方法である。しかし、過激派がイドリブから退避した後、トルコ国内に潜伏しないように、トルコからの出口も用意した上での過激派のイドリブ退避でなければならない。

今回の非武装地帯の設置や停戦実施と合わせて、過激派対策を手がけるトルコの情報機関が反体制勢力に働きかけているとされる。ロシア・トルコの合意が発表されて以来、イドリブ県周辺では大規模な衝突などは起こっていないが、水面下ではトルコと反体制勢力の間で、激しいせめぎあいが続いているということである。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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