コラム

米政権交代で「慰安婦合意」の再来を恐れる韓国

2020年12月25日(金)21時35分

あと一カ月足らずでトランプに取って代わるバイデンだが手の内は見えない(11月24日、閣僚に指名したメンバーと共に) Jonathan Ernst-REUTERS

<オバマの東アジア政策を踏襲するとみられるバイデン大統領からより多くの支持を引き出すのは日本か、韓国か>

アメリカでの大統領選挙が終わり、民主党のバイデン候補の当選が確定した。現大統領であるトランプは、依然、選挙において大量の不正があったと主張し、自らが真の当選者である旨繰り返しているものの、共和党内部においてすら、これを支持する声は急速に小さくなっている。

事態がこのまま進めば、バイデン新大統領の就任は1月20日。この原稿を執筆している12月末の段階で既に残り1カ月を切っている事になる。

新型コロナ禍により大きく傷ついたとはいえ、この超大国における政権交代は、常に国際政治に大きな影響を与える。とりわけ今回の大統領の交代は、様々な意味での「オリジナリティ」に満ちていたトランプから、リベラル派に属する決して個性豊かとはいえないバイデンへのものであり、国内政策は勿論、対外政策においても大きな変化が起こる事が予想されている。

だからこそ、各国はこの新たなる状況への対応を急いでおり、それは筆者の研究対象である韓国においても同様である。そしてとりわけ文在寅政権にとってはこの政権交代は特殊な意味を持っている。

北に理解のあるトランプの退場

その最大の理由は、彼らが対外関係における最優先の課題として位置づける北朝鮮との対話に大きな関心を向けたトランプ政権が、少なくともこの面においては極めて歓迎すべき存在だったからである。それ故にバイデン新政権下のアメリカが、対北朝鮮政策においてどのような方向に進むかは、彼らにとって重要な問題とならざるを得ない。

しかしながら、ここで厄介な事が一つある。それは来るべきバイデン政権の対外政策、そしてその中における対東アジア外交の基本方針が未だ必ずしも明らかではない事である。この様な現状がもたらされている理由は大きく二つある。

第一はそもそもアメリカにおける新政権の外交政策の形成に一定の時間がかかる事である。アメリカでは、例えばイギリスの「影の内閣」の様に、選挙戦の以前から次期政権の陣容と基本政策が詳細に決まっているのではなく、当選が決まってからその陣容と政策が固められる。

そしてその中で、緊急性が高くない外交政策、とりわけ東アジアに関わる政策は後回しにされ、政権発足後において通常6カ月程度、場合によってはそれ以上の期間に渡って、基本方針を巡る議論が続けられる。

第二は言うまでもなく、今日のアメリカに大きな打撃を与えている新型コロナウイルスの流行とその影響である。この状況下においては、新政権の政策的優先順位は、圧倒的に防疫政策を中心とする国内に向けられざるを得ず、外交政策の形成はますます後回しにされざるを得ない。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦案、イスラエルにこれ以上譲歩せずとハマス 

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIの基盤モ

ワールド

米がイスラエルに供給した爆弾、ガザ市民殺害に使われ

ビジネス

英アーム、通期売上高見通しが予想下回る 株価急落
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story