コラム

韓国・植物園の「客寄せ」だった土下座像が象徴する当節の「反日」の軽さ

2020年08月03日(月)17時05分

とはいえ、研究者として一旦距離を置いて見れば、この銅像を巡る状況は異なるものにも見えて来る。日本植民地支配からの解放以来、韓国では幾度も日本や日本政府を批判する運動やデモが展開されてきた。そしてそこにおいては、時に過剰なまでのパフォーマンスが繰り広げられてきた。筆者の知る範囲でも、1995年、「韓国併合は合法だった」という発言を契機に当時の村山富市首相を象った人形が初めて火あぶりにされて以来、日本の首相を形どった人形や写真、更には日の丸や旭日旗は幾度も踏みつけられ、燃やされて来たし、旧日本大使館前のデモで安倍首相をはじめとする政府やメディア要人のお面をかぶった人々が、土下座して謝罪したりするパフォーマンスも、繰り返し行われてきた。慰安婦に対する謝罪と言えば、2012年には李明博大統領が、また、2018年には文喜相国会議長が天皇の謝罪を求める発言を行っており、韓国においてはこの問題で天皇や日本の首相に謝罪を求めるのはある意味、もはや「常識」的な主張になっている。だからこそ、今回の銅像は見方によっては、この韓国においては「常識」的なものになっている主張が、銅像という形で目に見えるものになったに過ぎない、とすら言っても良い。つまり、韓国の文脈で言えばこの一対の銅像が示す姿は、決してとびぬけたものとは言えないのである。

ea7cb4b8b5047dc65d002d38a41c3b069edf349c.jpeg2014年3月1日、ソウルの日本大使館前で安倍の面を被って慰安婦像に謝罪する反日デモ(筆写撮影)


要人を揶揄する作品は世界中にある

そしてそれは必ずしも、韓国においてのみの話ではない。インターネットを少し検索すればわかるように、例えば、アメリカの歴代大統領を形どった人形や写真は、世界のあちこちで年中行事であるかのような頻度で火あぶりにあっているし、それはロシアや中国など他国の首脳についても言う事が出来る。自国や他国の指導者を揶揄する造形物はそれこそ世界の各地に存在し、あちこちのデモやお祭りに頻繁に登場する。

そもそも考えてみれば、雑誌や新聞には他国と自国の別を問わず、世界の政治的指導者を戯画化した漫画が毎日の様に掲げられており、そういったカリカチュアを専門にする雑誌すら存在する。2015年にテロリストにより襲撃され、12人もの犠牲者を出したシャルリー・エブド社は言うまでもなくその一つであった。序に書いておけば、我が国の書店にも、凡そ上品とは言えない表現を使って、韓国や北朝鮮、更には中国の指導者を非難し、揶揄する書籍や雑誌が並んでいる。言うまでもなく、これらの書籍における過激な表現が許容されているのも、一面ではこれらの政治的指導者が「公人」と見なされているからである。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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