コラム

移民は抑制したいが非道な抑制策には抵抗が......イギリス人の本音

2023年12月15日(金)17時50分
イギリスの介護施設で働く労働者

介護施設で親族が移民労働者の世話になっているイギリス人も多いが(写真はイメージです) HOLLIE ADAMSーREUTERS

<介護職は家族呼び寄せ禁止、イギリス人との結婚に高いハードル、など英政府の移民抑制策には困惑の声も>

イギリスの移民の急増具合を僕が記事にしたすぐ後に、英政府が純移民数を抑制するとした新たな政策を発表した。前回の記事の中で僕は、政府が「移民を減らすために行動できないか、するつもりがない」と書いたところだった。

こうした新たな対策はある程度の効果をもたらすかもしれないが、かつての通常レベルにまで移民の数を減少させられるとは考えにくい。それにコストもかかるだろう。議論も呼ぶだろう。理論上は、もっとずっと移民数を抑えたい多くの人々は、政策の具体像を聞いて困惑している。

例えば、介護施設で働く外国人労働者は今後、扶養家族(子供や、子供の世話をする姑など)をイギリスに連れてくることができなくなるという規定だ。介護労働者の移民は、ビザ取得の条件として他の移民労働者ほどの高収入の証明を求められないようになっているが、新たな規定は彼らが公共の財政にかける「コスト」にメスを入れようとしている。子供たちは学校教育を受ける必要があるし、NHSを頻繁に利用するだろうから、子持ちの家庭は一般的に、自分が支払う税金よりも、多額の恩恵を税金から受けている。

でもその一方で、多くのイギリス人は介護を受けている高齢の親族を抱えていて、介護が外国人労働者頼りであることを分かっている。彼らは、年老いた自分の母親の面倒を見てくれている良き若者たちが、母国に家族を残してこなくてはならなくなるかもしれない、などとは考えたくない。彼らには家庭生活を送る権利がないのだろうか。それでうまくいくはずがないじゃないか。当然、規定に従えばイギリスと母国に2つの世帯を抱えなければならず、それは介護職の給与では賄いきれないほど高くつくに違いない......。

そんなわけで、もちろん移民の労働者を採用するのは難しくなるだろうが、介護職はイギリス人にあまり人気のある仕事ではない。だから、人手を集める唯一の方法は大幅な給料引き上げしかない。そうなれば、ただでさえ高額になっている介護施設の料金もさらに上昇する。そしてイギリス人は、いずれ自分が相続するはずの親の資産が流出していくのを見ていい気はしないだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、シカゴへの州兵派遣「権限ある」 知事は

ビジネス

NY外為市場=円と英ポンドに売り、財政懸念背景

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=

ワールド

トランプ氏、健康不安説を否定 体調悪化のうわさは「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story