コラム

40度超え熱波のイギリスは「暑い夏」仕様にできていない

2022年07月28日(木)13時35分
暑さに戸惑うイギリス人

史上最高の40度を記録したイギリスだが、もともと暑い夏を想定していない国だけに人々は対処法に戸惑い気味(7月19日、ロンドン・トラファルガー広場) Henry Nicholls-REUTERS

<日本の夏の暑さをさんざんイギリスで吹聴してきた僕だが、近年はイギリスも異常な暑さが続き、そのうえ日本とは違って街も人々も暑さへの耐性がまるでできていない>

僕はよくイギリスの友人たちに、だいたいこんな言葉で東京の夏を言い表していた――イギリスでこれまでに経験した最高気温を上回る暑い日が、毎年だいたい100日は続くんだ。

これはたぶん、ちょっと大げさだったかもしれないが、だいたいの感じは伝わったと思う。でも今、僕はそんなことはとても言えない。今日、イギリスで最高気温が40度に達したからだ。数年前までイギリスの最高気温と思われていた温度から約7度も高い。そしてイギリスはここ数年、非常に暑い夏が続いていた。近年では、史上最高気温は2019年に記録された(ケンブリッジで38.7度)。

だから僕がいま言えるのはせいぜい、「東京は大概、イギリスに比べてより暑く、より湿度の高い日がより長く続く」という程度。これではいまいちインパクトに欠ける。

代わりに僕は、なぜちょっとした暑さがイギリス人にとってこんなにも大問題になるのかを、日本の人々に説明しようと思う。それは基本的に、イギリスが暑い気温に対応してできていないから。僕たちは自宅に冷房を備えていない。ロンドン地下の換気システムといえば、単に走行する地下鉄が周囲の空気をまき散らすというだけ。だから地下にいるとすごく暑い。プラットフォームには冷水機すら置いていない。

そして僕たちイギリス人は、この暑さにどう対処していいか分かっていない。僕たちは伝統的に帰宅後や喉が渇いたときにお茶を1杯飲む。平常時なら結構だが、気温35度を超える日に熱い飲み物を飲むのはあまりいいアイデアではない。イギリスの人々は暑いときには特に何も考えず窓を開けて風を入れるものだが、これは気温25度の日にはうまくいっても35度ともなれば逆効果だ。

線路はゆがみ滑走路は溶ける

イギリス人のあまりの暑さ対策音痴ぶりに、僕は驚いた。先日、汗ばむような夜だったので僕はエアコンで涼みながら読書しようとパブに出かけた。当然ながらエアコンはフル稼働していて、僕は壁際の席に座り、本を開き、そして......ラジエーターがオンになっていてそこから放熱されていることに気付いた。

異様なことに、相反する2つのシステムがある意味バトルを繰り広げていたのだ。つまり、冷たい空気を察知して自動的に暖房が入り(冬には有益な仕組みだが冷房している時にこれが作動するのは馬鹿げている)、エアコンがその熱を検知してより強力に冷風を出す。ボイラー経由でガスがこの場を温め、エアコン経由で電気がこの場を冷やし、連鎖的にバトルを繰り広げている。よりによって、空前のエネルギー価格を記録しているこの時期に。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

シリア反政府勢力、中部要衝ハマに進入 政権軍は後退

ワールド

韓国大統領・前国防相らを捜査 戒厳令巡り反逆の疑い

ビジネス

英企業の賃金上昇率予想、4.0%に鈍化=中銀調査

ビジネス

フランス内閣崩壊、財政赤字削減の道筋不透明に=S&
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 4
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 7
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 8
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 9
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 10
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story