コラム

久々の日本でまだ続いていた車優先社会

2018年02月07日(水)16時40分

なぜ歩行者が歩道橋の階段を上らなければならないのか TAGSTOCK1-iStock.

<日本では車が支配者で、苦しめられるのは歩行者。信号のない横断歩道で人が渡ろうとしても車が止まることはほとんどない>

最近、僕は日本を訪れて、かつて働いていた目黒のオフィスにちょっと顔を出した。目黒駅から続く権之助坂を歩いているとき、なんだか少し落ち着かず、違和感を覚えた。以前によく通っていた場所にしばらくぶりに訪れるときに、僕はこの感覚をよく味わう。

いつもなら、何が変わったのか正確に突き止められない(同じじゃない感じがするのは何となく、だから)。でも今回はうれしいことに、1つはっきりと気付くことができた。歩道が広くなったんだ! 最初は気のせいかもしれないとも思ったけど、同僚から確認が取れた。それに加えて、オフィスに向かう途中の道路の上に架かっていた歩道橋がなくなり、代わりに横断歩道ができていた。

僕が(最後にここで働いてから10年以上になるのに)この歩道拡張と歩道橋撤去に気付いたのは、この2つに僕がかつてイライラさせられたからだ。歩道は狭過ぎて混雑し過ぎ。そして、なぜ道路を渡るのに、僕が階段を上らなければならないのか? 車が優先されていることに、僕は憤りを覚えた。目黒だけではなく、日本中でだ。

折に触れて僕はこれらを愚痴っていたけれど、だいたい僕の日本の友人たちは僕が単に怒りっぽいだけか、いちいち天気に文句をつけているみたいなものだとでも考えているようだった。つまり、不満を言うのは結構だがどうせ仕方のないことだ、と。

そんなわけだから僕は、あちこちでわずかばかりの進歩があったことに喜んだ――そして多少は、僕の言っていたことが正しかったと証明されたように感じた。東京都心で車のために4車線の道路を作っておいて、歩行者にはほんの1メートル足らずの歩道を歩かせるなんて、バランスが取れているとは思えない。

それに、道路を渡りたい歩行者がたくさんいる場所では、車のほうに止まってもらいたいと思うのも、そう理不尽なこととは思えない(東京で歩行者が横断を「許される」のはどういうところかといえば、車があくまで他の車の流れを通すために止まらざるを得ないような場所であることが多い)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

引き締めの適切なバランスは「難問」=イタリア中銀総

ビジネス

フェデックス、スト決議のパイロット組合と暫定合意

ワールド

北朝鮮、ロケットの問題改修に数週間必要となる可能性

ワールド

米加州の住宅損保大手、新規契約を停止 災害リスク拡

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:ChatGPTの正体

2023年6月 6日号(5/30発売)

便利なChatGPTが人間を支配する日。生成AIとどう付き合うべきか?

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    62歳の医師が「ラーメンのスープを最後まで飲み干す」理由 塩分の摂り過ぎより高齢者が注意すべきことは?

  • 2

    【モナコ王室】心境の変化? シャルレーヌ公妃が劇的に髪色を変えてF1モナコ・グランプリへ

  • 3

    「日本ネット企業の雄」だった楽天は、なぜここまで追い込まれた? 迫る「決断の日」

  • 4

    反プーチンロシア人武装集団が、ベルゴロドで逃げ惑…

  • 5

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎ…

  • 6

    NY沖に米軍艦が出現...ウクライナ支援で、アメリカが…

  • 7

    F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官

  • 8

    カーレーサーはレース中、きまって「ある場所」でま…

  • 9

    不支持約60%、かつての「衛星国」でもプーチン支持…

  • 10

    世界で最も稼いだK-POPスター第1位は? BTSメンバー…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    「ぼったくり」「家族を連れていけない」わずか1年半で閉館のスター・ウォーズホテル、一体どれだけ高かったのか?

  • 3

    F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官

  • 4

    築130年の住宅に引っ越したTikToker夫婦、3つの「隠…

  • 5

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、…

  • 6

    ロシアはウクライナを武装解除するつもりで先進兵器…

  • 7

    韓国アシアナ機、飛行中に突然乗客がドアをこじ開けた…

  • 8

    「英語で毛布と言えないなら渡せない」 乗客差別と批…

  • 9

    【ヨルダン王室】ラーニア王妃「自慢の娘」がついに…

  • 10

    ジャニー喜多川の性加害問題は日本人全員が「共犯者…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    世界がくぎづけとなった、アン王女の麗人ぶり

  • 3

    カミラ妃の王冠から特大ダイヤが外されたことに、「触れてほしくない」理由とは?

  • 4

    「ぼったくり」「家族を連れていけない」わずか1年半…

  • 5

    F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官

  • 6

    築130年の住宅に引っ越したTikToker夫婦、3つの「隠…

  • 7

    日本発の「外来種」に世界が頭を抱えている

  • 8

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、…

  • 9

    チャールズ国王戴冠式「招待客リスト」に掲載された…

  • 10

    「飼い主が許せない」「撮影せずに助けるべき...」巨…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story