コラム

予測不可能で大波乱の英総選挙

2015年04月17日(金)11時43分

「予測はするな。特に未来のことは」。これは、イギリスではけっこう有名なジョークだ。そして、格言めいてもいる。物事は時として、期待とは違う方向に進むものなのだから。

 それを念頭に置くと、僕は5月に行われるイギリス総選挙について、あまり大胆な予測はしないほうがいい、ということになる。でも、この選挙に懸かる問題を読者に理解してもらうために、何とかして重要なポイントを伝えたいと思う。

 今回の選挙では、明確な勝者が誕生することはあり得なそうだ。現政権は保守党と自由民主党の連立政権で、5月の総選挙でもいずれかの政党が単独過半数を獲得するのは難しそうだ。

 僕の人生の大半において、イギリス総選挙は根本的に、労働党と保守党の一騎打ちであることが多かった。でもこの常識は、もう通用しない。保守党は反EUを掲げるイギリス独立党(UKIP)のせいで弱体化しつづけている。労働党はイギリスからの分離独立を叫ぶスコットランド民族党躍進のおかげで、かつて強力な支持基盤だったスコットランドから一掃されようとしている。自由民主党はこれまで「第3政党」につけていたが、今や5番目の地位に転落している。イギリス政治は、もはやバラバラに分断しつつあるようだ。

 選挙後にどんな連立政権が誕生するのか、いろいろな組み合わせが考えられるが、どれも確実ではない。「一番シンプルな」形は、今のまま保守党と自由民主党が連立を組むものの、そのせいで自由民主党は主要な支持基盤からそっぽを向かれる、というパターンだ。自由民主党の支持者の多くは、「保守党政権を継続させる」ことになるなら、自由民主党に投票したくないと思うだろう。

■スコットランド独立が蒸し返される

 いちばん「自然」な連立――労働党とスコットランド民族党という左派の2つの政党の協力――もまた、問題が多い。労働党は、スコットランド民族党を政権に迎え入れることで、彼らにお墨付きを与えたくはないと思っている。

 スコットランド民族党はまさに、スコットランドの分離独立のために存在している。彼らは昨年行われた独立の是非を問う住民投票で敗れ、独立は近い将来の議題から完全に外されたものと思われていた。だが5月の総選挙で彼らがスコットランドにおいて大勝すれば、「状況は変わった」と主張しだす可能性もある。

 彼らが即座に行動に移ることはないだろうが、事前の世論調査どおりにスコットランド民族党が善戦すれば、彼らはスコットランド独立の議論再開に向けて再び戦略を練り始めないわけにはいかない。だから、2014年の住民投票の結果「維持された」はずのイギリスの連合は、またもや危機にさらされることになる。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story