コラム

ちょっと「残念」だった2014年の改革

2014年12月22日(月)10時32分

 だが結局この改革によって、黙っていてもISA口座に大金が舞い込んでくるから、銀行は良い金利で顧客をつかむ努力をする必要がなくなった。今や金利は1年前より約1%は下落している(既に1年前、金利は史上最低レベルだった)。政府は結果として、銀行が有利に、預金者が不利益になるように需要と供給のバランスを変えてしまったことになる。

(桁違いの税金を払っている高額所得者の場合は話が違うかもしれないが)ISAの非課税預金が他の当座預金よりも割の悪いものになった今となっては、ISA口座は「予期せぬ結果」になってしまった。銀行はISAではなく当座預金を新たに獲得するため、新規口座開設の特典や特別金利などで当座預金に顧客を集めようと競い合っている。だから、驚くような話だけど、ISAの改善策は結局、非課税のISA口座から課税の当座預金口座にカネを移したほうがマシ、という状況になってしまった。

■「持てる者」が得をするばかり

 もっと最近になってオズボーンが行ったのが、住宅購入にかかる理不尽な税金の改革だ。印紙土地税と呼ばれるこの税の税率はこれまで、不動産価格に応じた区分ごとに設定されていた。

 詳細は省くが、これまで25万ポンド未満の不動産購入には1%の税金が、25万~50万ポンドでは一気に跳ね上がって3%の税金が課されていた。つまり例えば、25万ポンドを1ポンドでも超えると税額が突然5000ポンド増えることになったのだ。だから25~27万ポンドの価格帯の住宅はほぼ売れない状態だった。

 あるいは、売り手と買い手が協力して住宅の価格は25万ポンド以下という設定にし、その代わりに数千ポンドの明らかに高過ぎる付帯設備を「合わせて購入する」ことにして帳尻を合わせる、というケースも多かった。

 それが今回の改革によって、25万ポンドを境に1%から3%へ急上昇するのではなく、徐々に税率を挙げる方式に変更された。これまでの制度がひどかったから、賢明な改革だと僕は思う。

 それなのに既に聞こえてくる話では、不動産の売り手は事実上、価格が数千ポンド下落していると考えて販売価格を釣り上げている。その結果おそらく、政府税収は少なくなり、売却する不動産を持つ人々(「持てる者」)にはより多くのカネが入り、不動産を購入したい人々(「持たざる者」)は限界利益しか得られないことになるかもしれない。

 小説の中の学者のように、物事のお粗末な仕組みに僕はいらいらさせられてしまった。でもだからといって、政治家は改革を放棄するべきではないとも思う。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア決算に注目、AI業界の試金石に=今週の

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく 砂漠化する地域も 
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 7
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 8
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story