コラム

英メディアを離脱支持に回らせた「既得権益」

2016年06月29日(水)18時40分

 ちなみに、現在英国で軽減税率の恩恵を受けている業界は生活必需品から医療、新聞、金融まで実に多岐に渡ります。英国の新聞は、高級紙が5紙、大衆紙まで合わせれば10紙以上となりますが、EU離脱に賛同する新聞も多かった(タブロイド紙を中心に投票直前BREXITを煽った事が現在問題にもなっています)。繰り返しになりますが、それだけが離脱の理由ではないにせよ、あの業界がなぜ離脱推進なのか? 税制面から見ると透けて見えてくることがある訳です。

 国民投票後になって、離脱派は投票前の公約の一部は「うそ」だったことを認めています。軽減税率のうそが暴かれるのもまた時間の問題でしょう。

 今回は英国社会に溜まりに溜まった鬱積が投票結果として表に出たのは間違いありませんが、鬱積の本当の解消になるのか、実体経済の真の充実、格差是正になるのか、その鬱積を利用する勢力もまた存在する以上、国民側は慎重に多角的に判断する必要がある。なお、一部の指摘にあるようなEU離脱票を入れた人々を愚ろうするものでは全くありませんので誤解なきよう。EU離脱を受け、経済が混乱すればその煽りを最も受けるのは離脱に賛成票を投じた人を含む一般国民でもあります。負の影響を最小限にとどめるためにも賢明かつ複雑な判断が求められるわけで、ここを面倒くさがってはならないという戒めとして我々も受け止めるべきではないでしょうか。

【参考記事】地べたから見た英EU離脱:昨日とは違うワーキングクラスの街の風景

 早速英国内では投票のやり直しを求める声も出ている模様です。ピンチはチャンス。投票結果を受けての今後の動向次第では変革に向かうきっかけにもなりうるわけで、多くの英国民にとって、EUの大多数を占める一般国民にとって良い方向に向かってほしいものです。

 そうそう、イギリスのEU離脱を予想していた上でのリーマンショック前夜との指摘だった、などという苦しい言い訳はよしましょう。常にグローバル経済にリスクの芽が存在していることなど各国首脳は承知の上で、それを語る際の因果関係が徹底的におかしいとの指摘をされたのが先のG7ですから。

 百歩譲ってEU離脱を予想していたとして、であるならリーマンショック前夜というサミットでの前言を撤回しなければよろしい。そしてそこまで言うなら、発言した時点で何はともあれGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株式保有比率を引き下げるべきでしょう。一日1兆円ずつ売っても20営業日あれば、改革前の保有比率に戻せるわけですから。

 名を捨てて実体経済の実を取る、古今東西そうした当たり前の政策運営が待ち望まれます。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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