コラム

話題の再編集本と菅首相の「地味なポピュリズム」

2020年12月07日(月)07時00分

本題に戻ろう。マスメディアに問題があるのは菅の指摘どおりだ。だが、「国民」に示しをつけろと政治家が言及した結果、民放の構造上の問題は変わったか。筆者が見る限り、何も変わっていない。NHKは報道機関として、より機能するようになったか。何も変わっていないばかりか、現場からは時の政権の顔色をうかがう話ばかりが聞こえてくる。

彼は事あるごとに「既得権益」を見つけ、「敵」に仕立て上げる。その処罰行動を「改革」と呼び、反既得権益、反マスコミ層の鬱憤を晴らし、満足を与えてきた。体系的なイデオロギーを持たず、何かにつけ敵を仕立て、「国民の意思」を錦の御旗に、彼が認定するところの敵と既得権益を壊そうとする。こうした政治手法を私はポピュリズムと呼んできた。菅政治の真骨頂は、派手さはないが、確実に実行する「地味なポピュリズム」なのだ。菅の手法は、時代と呼応するように支持をつかんでいる。そのマーケットを狙った一冊は、確実に売れている。

<本誌2020年11月24日号掲載>

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プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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