コラム

ブレグジットで激変する海上輸送、ウェールズ港没落はイギリス解体の予兆なのか?

2021年04月02日(金)13時30分

英ウェールズのホリーヘッド港と、ダブリン発のフェリー。ブレグジットで大打撃を被る Phil Noble-REUTERS

<これまでイギリスを陸路で経由していたアイルランド、北アイルランドからの物資は、海上輸送によって直接フランスや欧州大陸へと運ばれるようになった>

ブレグジットから約3ヶ月が過ぎた。

ワクチンをめぐり欧州連合(EU)と英国のいさかいが深刻になっているが、その他にも大きな変化がいくつか起きている。

一番の目立つ変化は、海上輸送である。

アイルランドと、北アイルランド(英国領)からの物資が、海上輸送で、直接フランスや欧州大陸に着くようになったのだ。

今までは、多くの貨物が、アイルランドから海を渡って英国に入り、陸路でウェールズとイングランドを南下してから、フランスに渡る――という道をたどってきた。

最も主要なルートは、ダブリン(アイルランド)から、対岸のホリーヘッド(英国ウェールズ)へ、海をフェリーで渡る。英国国内の高速道路を走り、ドーバー(英国)に到着。ここからカレ(フランス)へ、フェリーやユーロトンネルを使うやり方だ。

ima210401-brexit02.jpg

ダブリンからホリーヘッドまでは約3時間半、ダブリンからシェルブールまでは約18時間である。GoogleMapを元に、筆者作成。

地図を見ていただければわかるとおり、この方法では海を航行する距離が、大変短くてすむ。いわば、ブリテン島を陸橋(ランドブリッジ)のように利用するのである(瀬戸内海を連想させる)。

このほうが、アイルランドの港から直接フランスの港に船で行くより、時間とコストがやや少なくて済むからだった。

ところが、英国がEUを離脱してしまったため、英仏の間で、大変煩雑な手続きが必要になってしまった。ビジネス界は敏感で、企業はこの新たな面倒とリスクにソッポを向いてしまったのだ。

彼らが選んだのは、直接船でアイルランドからフランスへ輸送する道だった。これなら、今までどおり、EU単一市場内の移動で済む。

今、アイルランドやフランスの港は、新たに活況を呈している。反対に没落しはじめたのが、ウェールズの港である。このことは、「連合王国」の維持に影響を与えるかもしれない。

明暗を分けるアイルランドと英国

それでは、どのくらいの増減が生じたのだろうか

2月22日までの1週間で、アイルランドから英国に向かう貨物量は、Stena Line社では、前年同期比で約半分に減少してしまった。その分、フランスに直接向かう貨物量は、約2倍に増えた。

同社は、既存のロスレール(アイルランド)からシェルブール(フランス)へのルートに加えて、首都ダブリンからシェルブールへの新ルートを開始した。昨年の6便に比べ今や週14便で、アイルランドと欧州大陸を結んでいる。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story