ニュース速報
ワールド

選挙終盤に響いたママの一言、「戦争の足音」感じた有権者の心情映す

2026年02月08日(日)20時20分

2月8日、衆院選投開票日に都内で雪玉を作る人々。REUTERS/Kim Kyung-Hoon

Tamiyuki Kihara

[東京 8日 ロイ‍ター] - 「ママ、戦争止めてくるわ」。衆議院選の終‌盤に差しかかった5日午後6時過ぎ、1人の女性が短い言葉をソーシャルメディア(SNS)のXに投稿した。反響は瞬く間に広がり、「#(ハッシュタグ)」を付けたポスト数は日本語のトレンド1位にまで駆け上がった。投稿主は東京都に住むエ‌ッセイストの清繭子(きよし・まゆこ)​さん(43)。これまで特別な政治的発信をした経験はなく、ロイターの取材に「反応の大きさに驚いている」と語った。2人の子どもを育てる母親の何気ない言葉は、国民に広がり始めた一つの心情を浮き彫りにした。

「子どもたちを安心させたくて、自然に出た言葉だった」と、清さんは取材に語った。5日午後、保育園にいる娘を迎えた足で期日前投票をしようと思い‌立ち、自宅を出る前に小学生の息子にかけた一言だった。

当時、報道各社は情勢調査で「自民党大勝」を伝え始めていた。高市早苗首相(党総裁)の人気は全国に広がり、SNSも熱狂で溢れた。「日本列島を強く豊かに」と訴え、防衛力の抜本的な強化を掲げる高市氏。憲法改正の発議に必要な3分の2の議席獲得も見え始めていたタイミングだ。

加えて、ある自民候補が選挙期間中、戦争を想起させる発言で物議を醸した。その後謝罪したものの、清さんは「人の命が失われる。子どもたちの命が失われる。そんな戦争に1ミリでも近づくわけにはいかない」との思いを強くした。「自民大勝の情勢を少しでも変えたくて期日前投票に行くことにした。だからとっさに目の前にいた長男に『ママ、戦争止めて​くるわ』と言ったのだと思う」

2人の子どもを連れて投票所にできた20人ほどの列に並⁠びながら、何気なくスマートフォンでXに投稿した。直後から閲覧数は「見たことのない速さ」で増え、多くの‍著名人や政治家が「#」を付けて発信したことでさらに拡散した。

清さんは特定の政党に属しているわけではない。子ども好きで、平和な日々を送りたいと願っている母親の一人だ。「政治的な発言だと思われたくない。日常の中で出てきた言葉だったということを分かって欲しい」と思い、翌6日には自身のブログで投稿の経緯を説明した。

批判的な意見を寄せる人がいて心細くもなったが、投稿を見て「‍私も戦争止めてくるね」と言ってくれた「ママ友」の言葉に救われた。

選挙戦が終わった7日夜の時‍点で投稿‌は650万回以上閲覧され、「いいね」は4万6000件、「リポスト」は1万6000回を超えた。「パパも止めてくる」「55歳ケアマネ‍も止めてきます」など、それぞれの投稿主が自身に重ねてアレンジしたポストも広がっている。

高市氏は「自国を守る力のない国を誰も守ってくれない」とし、平和のためにも防衛力の抜本的強化が必要と訴えている。それでも「子どもたちが戦争に行くかもしれない社会は嫌だ」と思う。「戦争をしたくないという声が政府に届かない世の中になってしまうことが怖い。小さな一歩が大きな一歩にな⁠って、いつの間にか始まってしまうのが戦争だと思うから」。公園で縄跳びをして遊ぶ2人の子どもを見つめながら、清さんはこう話した。

今回の衆院選では防衛力強化の是非も有権者の関心を集めた。⁠自民は「新たな時代に対応した防衛体制の構築」を掲げ、‍安全保障関連3文書の早期改定、自衛隊を憲法に明記するための改憲実現に意欲を示した。防衛装備の輸出を制限する「5類型」の撤廃も公約に盛り込んでいる。野党第1党の中道改革連合は、日米同盟を基軸としつつ積極的な対話外交を強化するべき​だと訴えた。

戦争や安全保障を巡る考え方は人によって異なる。抑止力の強化こそが平和への道だと説く声がある一方で、力の論理がより大きな危険を招くとの指摘も絶えない。そうした中で清さんの率直な言葉がこれほど多くの反響を得た事実は、戦後80年を経て再び「戦争の足音」を感じ始めた国民の心情を確かに映し出している。

(鬼原民幸 編集:橋本浩)

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米石油大手幹部、エネ市場動揺悪化の公算大と政権に警

ワールド

再送-トランプ氏、イランと接触と発言 交渉には懐疑

ワールド

トランプ氏、ホルムズ海峡警備で協力要求 「7カ国と

ワールド

英首相、ホルムズ海峡巡りトランプ氏と協議 カナダ首
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングアップは「2セット」でいいのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 6
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 7
    ぜんぜん身体を隠せてない! 米セレブ、「細いロープ…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 10
    50代から急増!? 「老け込む人」に共通する体の異変【…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中