コラム

サウジが、仇敵イランと「関係正常化」合意の訳...中東の情勢と、根底にある打算

2023年04月13日(木)18時41分

イランとの関係正常化はリスクヘッジ

その「大悪魔」はサウジにとって一番の戦略的同盟国だ。サウジがアメリカに対し、イスラエルとの国交正常化の条件としてより確かな安全保障と、民生用の核開発支援を要請したと米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じたのは、今回の合意のわずか1日前のことである。

サウジを含む中東諸国にとって、イランの拡張政策や核開発は今も変わらぬ脅威だ。サウジとイランはこれまでも国交の断絶と正常化を繰り返してきたが、一方でイランは着実に核保有に近づいている。

アラブ首長国連邦(UAE)も22年、イランとの外交関係を正常化した。全く話もできない関係よりは、外交窓口があるほうがまだマシであり、投資でもすればイランに「一線を越えれば失うものがある」と思わせることもできようという思惑がうかがえる。イランとの関係正常化は、ほかの中東諸国にとってリスクヘッジの一種なのだ。

彼らはイラン、中ロ、そしてアメリカとも「良好な関係」を築くことで自国の安全保障を確保し、利益を最大化しようとしたたかな外交を展開する。その根底にあるのは、他国に対する信頼ではない。根強い不信だ。

ニューズウィーク日本版 Newsweek Exclusive 昭和100年
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月12日/19日号(8月5日発売)は「Newsweek Exclusive 昭和100年」特集。現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:米関税50%の衝撃、インド衣料業界が迫ら

ワールド

トランプ氏、プーチン大統領と15日にアラスカで会談

ワールド

プーチン氏、中印首脳らと相次ぎ電話会談 米特使との

ワールド

アルメニアとアゼルバイジャンが和平宣言に署名、米仲
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 3
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トップ5に入っている国はどこ?
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 6
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 7
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 8
    パリの「永遠の炎」を使って「煙草に火をつけた」モ…
  • 9
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 10
    「ホラー映画かと...」父親のアレを顔に塗って寝てし…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story