コラム

シリアは熟練兵をロシアに提供か? サウジなど親米国もアメリカと距離を置く姿勢

2022年03月15日(火)17時40分
アサドとプーチン

モスクワでプーチン(右)と固く握手するアサド(昨年9月) SPUTNIK PHOTO AGENCYーREUTERS

<ロシアのウクライナ侵攻に対する中東の反応は複雑。ロシア寄りの国、反ロシアのイスラム過激派、アメリカの同盟国、それぞれ動きを紐解く>

ロシアのウクライナ侵攻は世界に衝撃をもたらした。中東の場合、その影響も反応も複雑だ。

ロシアのウクライナ侵攻を真っ先に支持した国の1つはシリアである。2011年から続く内戦でアサド政権の窮地を救ったのは15年のロシアによる軍事介入だ。一時は国土の3割にまで減らした支配地域をアサド政権は21年には7割まで奪還した。

ロシアはこれにより東地中海に海軍基地を拡張し、ロシア企業に新たな市場をもたらし、アサドとのパートナー関係をより確実なものにした。米ウォールストリート・ジャーナル紙は先日、米当局者筋として、ロシアは市街戦に慣れたシリア人を傭兵としてウクライナ戦に投入しようとしていると報じた。

イランの最高指導者ハメネイは、「米政権は危機をつくり出し、世界中の危機を食い物にしている。ウクライナもその犠牲者だ」と述べ、アメリカは信頼できないと批判した。長年欧米の制裁を受けているイランにとってロシアは戦略的パートナーだ。

1月にはライシ大統領がモスクワを訪問してプーチン大統領と会談した。イランはロシアとの二国間貿易を現在の約40億ドルから100億ドルに引き上げ、原子力発電所プロジェクトでロシアの支援を受けることも目指している。

ウクライナ不安定化は過激派を利する

一方で、イスラム過激派がロシアを主たる敵の1つ、と位置付けていることも忘れてはならない。

ロシアや旧ソ連諸国からはこの10年間に数千人がイスラム過激派組織入りしたとされる。コーカサス地方には「イスラム国」系とアルカイダ系組織が「共存」し、シリアではチェチェン人、コーカサス人、ウズベク人、タジク人が多数派を占めるイスラム過激派組織が活動している。

ウクライナの不安定化は彼らを利することになり、地域の混乱に拍車を掛ける可能性がある。

中東におけるアメリカの同盟国の反応も複雑だ。

国連安全保障理事会のロシアによるウクライナ侵攻非難決議案の採決において、アラブ首長国連邦(UAE)は棄権を選択した。UAEは年初来、イランの支援するイエメンの武装勢力フーシー派から弾道ミサイルやドローンによる攻撃を受け、死者も出ている。

UAEはアメリカに対しフーシー派を再度テロ組織に指定するよう要請したが、バイデン政権の反応は鈍い。トランプ政権はUAEとの間でF35や最新のドローン技術を含む230億ドル相当のアメリカ製兵器の売買契約を成立させたが、UAEはアメリカが課した戦闘機使用の場所や方法についての制限がUAEの主権を侵害するとして、契約締結を中断した。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ホンジュラス前大統領釈放、トランプ氏が恩赦 麻薬密

ワールド

プーチン氏と米特使の会談終了、「生産的」とロシア高

ワールド

米ブラジル首脳が電話会談、貿易や犯罪組織対策など協

ビジネス

NY外為市場=ドル対円で上昇、次期FRB議長人事観
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 6
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 7
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story