コラム

「AIファクトチェック」はもはや幻想? 非常時に裏切るチャットボットの正体

2025年07月08日(火)16時31分

AIは自律的に偽・誤情報を発信する

ファクトチェックを依頼されたAIが偽・誤情報を回答することは、これまでのボットと大きく異なる。そこには人間の意思が介在していないのだ。従来のボットには意図を持って操作している人間がいるが、今回のGrokやChatGPTは人間に操られて偽・誤情報を回答したのではなく、自律的に回答している。ここには大きな問題がある。


・AIを提供している側はこの事態を予防できなかったし、今後も予防できない可能性が高い。
・同種の問題が世界中で使用されているAIで起きている可能性が高い。
・自律的な活動であるため、制御できない。

災害時、戦時、パンデミックといった変化の多い状況で、AIが自律的に意図せず偽・誤情報を発信することが増加する可能性は高い。特にパンデミック時には正しい情報を求める人々がAIに質問し、誤ったことを教えられるケースは発生しやすく、非常に危険である。

言い方を変えれば、なんらかの社会的イベントを起こすことで、いつでも多数のAIに偽・誤情報を発信させることができる、とも言える。AIが検索エンジンを代替しつつあるため、深刻な脆弱性であり、脅威と言っても過言ではないだろう。いつの間にかAIは我々の生活のいたるところに配置されているのだ。

昨年、私は「2026年になれば目にする情報の半分以上が偽・誤情報になる」とSNSに投稿してバズったが、その予想は的中しつつある。多くの方がご存じのように世界は加速度的に混迷を増し、100年に1度の災害が毎年起こり、各地で紛争や政変が絶え間なく起きている。

事実や偽・誤情報は短いサイクルで更新されるため、原理上AIはそのサイクルに合わせて認識を進化させたることは難しく、偽・誤情報を回答する頻度が増える。

もちろん、日本も例外ではなく、最近ある政党がファクトチェック用AIツール(ファクトチェック部分はChatGPT)を公開するなど、「平時の応答」をベースに信頼できるツールと認識している人々が導入、利用を推進している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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