コラム

犯人を予測する予測捜査システムの導入が進む日米 その実態と問題とは

2020年09月10日(木)18時30分

日本でも導入が進む予測捜査ツール

日本の警察でも予測捜査が始まっている。警察庁が2019年に行った実証実験では、車両の判別、マネーロンダリング、大規模なイベント時の不審点発見の三つのテーマが設定されていた(AIsmiley、2019年11月8日)。

京都府警は「予測型犯罪防御システム」を2016年10月から利用開始した(産経新聞、2016年9月29日)。これはAIを利用しないタイプの予測捜査ツールである。開発費は6,500万円だという(ITmediaビジネス)。

神奈川県警は独自の予測捜査ツールの開発を検討している(産経新聞、2018年1月28日)。

福岡県警では特定危険指定暴力団工藤会の組員の衝撃予測を行うシステムを開発した。土地柄によって優先される犯罪の種類は異なるようである(産経新聞、2018年10月24日)。

警視庁も犯罪・交通事象・警備事象の予測におけるICT活用の在り方に関する有識者研究会を開催し、研究会から予測におけるICT活用の在り方についての提言を受けた。これらの動きは氷山の一角と言える。日本全国で予測捜査体制が整備されつつあると考えてよいだろう。

日本にも予測捜査のシステムを提供している民間企業がある。前述の京都府警のシステムはNECが開発したもので、他の地区の警察にも提供している模様である(はっきりと書いていないが、NECソリューションイノベータのウェブには"県警"と書かれており、京都"府警"以外の警察にも提供していることがうかがえる)。

株式会社Singular PerturbationのモデルはPredpol社と似たものだが、独自モデルで犯罪の発生を予測する。同社は前述の警視庁の有識者研究会でプレゼンテーションを行った。

ELSYS JAPAN株式会社 (製品名DEFENDER-X)は人物、特に精神状態に焦点をあてて犯罪を予知するシステムを提供している。人間の身体を観察および基礎データから精神状態を推定し、犯罪可能性を判断する。現在、同社のサイトによればロシア国内で約500システム、それ以外の国(日本を含む)で500以上が稼働しているという。ソチオリンピックでも利用されていたという。また、同社資料によれば2018年ワールドカップ、平昌オリンピックでも利用された他、大韓民国警察庁やソウル地方警察庁にも使われているという。

これら以外にも多くの企業で予測捜査ツールが開発中あるいはすでに販売されていると考えられる。今後、日本においてもアメリカと同様に導入が進むのは間違いない。遠くない将来、前回ご紹介した監視カメラ+顔認証システムと連携した包括的な監視網となると予想される。

日本の予測捜査ツールにもアメリカの予測捜査ツールと似た問題点がある。あらためて同じ事を繰り返して書かないが、ひとつだけ付け加えておく。日本の刑法犯の起訴率は平成最後の10年間(2009年から2019年)で一度も50%を超えたことがない(令和元年版 犯罪白書、法務省、2019年11月)。2018年と2019年は37%である。つまり半分以上は起訴されず、事実上無罪となっているのだ。予測捜査ツールにこの分のデータは使用すべきではないだろう。半分は犯罪ではなかったのだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『新しい社会を生きるためのサイバー社会用語集』(原書房)など著作多数。ツイッター

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