コラム

星占いの源流は中東にある、ラッキーアイテムなどなかった

2019年01月24日(木)19時50分

Nebojza-iStock.

<その昔、占星術師は数学の知識や観察力に優れた立派な科学者だった>

きちんと調べたわけではないが、毎朝、仕事に出る時間になると、いろいろなテレビ局で占いを流しているような気がする。星占いなどまったく信じていないのに、自分の星座の運勢がいいと、何となくその日一日気分がいいが、「ゴメンナサーイ、今日もっとも運勢の悪いのは~座のあなた」とかいわれると、一気にドン引きである。

ただ、この種の占いでは、「でもだいじょうぶ」とかいって悪い運勢をカバーしてくれるラッキーアイテム的なものも紹介してくれることが多い。そのアイテムをもっていたり、そこで示された場所にいったりすると、悪い運勢を跳ね返せたり、被害を最小限に食いとめたりできるらしいのだ。

たとえば、この原稿を擱筆した1月24日の某テレビ局の星占いだと、最悪は双子座で、おまじないとして「正座をする」ことが推奨されているほか、「よくかんで食べる」とアドバイスされ、またラッキーポイントが「家族でよく行く店」であるという。

星占い、あるいは占星術は、星の位置から地球上で発生する事象を予想するもので、両者のあいだに何らかの因果関係があることを前提としている。思いっきり単純化すると、星がAという位置にあったときに、Bという事件が発生した。ふたたび星がAという位置にきたときに、またBという事件が起きた。したがって、今度、星がAの位置にくれば、きっとBという事件が起きるであろう、という発想だ。

占星術側が、占星術の正統性を主張するときにしばしば用いる経験科学というレトリックである。経験的事実から実証的に普遍的な法則を導き出し、その普遍的な法則から、今度は未来に起こる事象を予測するというわけだ。

したがって、経験的事実が積み重なれば、予測の精度はそれに比例して高くなるはずである。もちろん、星の位置もより高い精度で観測できるようになっているので、その意味でも、未来予測はより正確になっているだろう(いや、そうでなければならない)。

未来を的中させていた、千年前の占星術師ビールーニーの逸話

現代の占星術、いわゆる西洋占星術の源流は中東にある。古代メソポタミアからエジプトやギリシアに伝わった占星術はイスラーム時代になって偉大な占星術師たちによって集大成された。その代表格が9世紀にバグダードで活躍したイラン系の占星術師アブー・マァシャルであろう(中世ヨーロッパではアルブマサルとして知られている)。

世界史の教科書にも出ているように、イスラーム世界の占星術や天文学がヨーロッパに大きな影響を与えたため、たとえば星の名前などにはアラビア語がいくつも残っているのである。わし座のアルタイルやこと座のベガなどがそうだ(それぞれ日本だとひこ星とおりひめ星)。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

TSMC、熊本県第2工場計画先延ばしへ 米関税対応

ワールド

印当局、米ジェーン・ストリートの市場参加禁止 相場

ワールド

ロシアがウクライナで化学兵器使用を拡大、独情報機関

ビジネス

ドイツ鉱工業受注、5月は前月比-1.4% 反動で予
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story