コラム

水を飲めず、MOMも受け取れないロシアW杯選手たち

2018年06月25日(月)17時01分

日本のサッカーマンガ『キャプテン翼』のアニメはアラブ世界では1980年代から放送されており、どこでも大人気であった。ただ、アラビア語版アニメでは「翼」はアラブ風に「キャプテン・マージド」と呼ばれている。このマージドは元サウジ代表マージド・アブダッラーの名から取ったともいわれている。

しかし、今アラブ世界を代表するプレーヤーといえば、エジプトのストライカー、ムハンマド・サラーフ(モハメド・サラー)であろう。

酒の会社のMOMは受け取れない、とエジプトGK

サラーフは所属するリバプールでUEFAチャンピオンズリーグ決勝をレアル・マドリードと戦った際、肩を負傷し、その影響で本調子にはほど遠い。初戦のウルグアイ戦は欠場、次のロシア戦ではPKを決めたが、チームとの一体感は感じられなかった。

代わりにウルグアイ戦では、マン・オブ・ザ・マッチ(MOM)が、敗者にもかかわらず、その果敢な守備を評価され、エジプトのGKムハンマド・シャンナーウィー(モハメド・エル・シェナウィ)に与えられることとなった。しかし、シャンナーウィーはそれを拒否した。MOM賞のスポンサーが、ビール大手バドワイザーだからというのが理由だそうだ。

イスラームが禁じている酒の会社がスポンサーの賞はハラールではない、という理屈なのだろう。ムスリムでサッカーを生業とするのはいろいろ苦労があるんだとあらためて教えられた感じがする。

ちなみに、サウジのファンの一部はウルグアイ戦後、スタジアムを掃除している。まあ、これはイスラームの問題というよりは、日本人サポーターをまねたのかもしれない。

そういえば、テロ組織イスラーム国ISも、イスラーム的に正しいサッカーというのを提唱していた。これは逆にいえば、現状のサッカーはイスラーム的に正しくないということでもあり、実際、ISのテロでサッカーのスタジアムが攻撃された、あるいはされそうになった事件がいくつもあったのである。

試合結果のみならず、W杯が終わるまで、目が離せそうにない。

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プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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