コラム

リオ五輪を(別の意味で)盛り上げてくれた中東の選手たち

2016年08月24日(水)19時08分

Lucy Nicholson-REUTERS

<自国選手団があるのに難民選手団の一員として参加した選手、「イスラーム的」服装で異彩を放ったビーチバレー・チーム、ユニフォームの胸に「アリーよ」と宗教的メッセージが書かれていた選手......。禁止されてはいても、政治的・宗教的な話題はオリンピックには欠かせなかった> (写真:女子ビーチバレーのエジプト対ドイツ戦、8月7日)

 リオ・オリンピックでの日本人選手の活躍もあり、メディアは連日大騒ぎだったが、リオでは中東諸国の選手たちもいろいろな意味でがんばっていたようだ。さすが中東諸国だけあって、競技そのものよりも、政治的・宗教的な話題で盛り上げてくれた。

 オリンピック憲章には、オリンピック競技の行われる場所ではいかなる政治的・宗教的・人種的プロパガンダも許されないと明記されている。とはいえ、オリンピックが国威発揚の場であるのは否定しようがないので、これまでも政治的プロパガンダの場として利用されつづけてきた。もっとも有名なのはメキシコ・オリンピックで米国の黒人選手2人が表彰台で黒人差別に抗議した事例であろう。また、ミュンヘン・オリンピックではパレスチナ・ゲリラがイスラエル選手団を襲撃するといった事件も発生した。

 リオの場合でも、オリンピックがはじまるまえからテロ組織イスラーム国(IS)の脅威が懸念されており、実際、ブラジルからISのリーダー、バグダーディーに忠誠を誓うというアラビア語声明(下記)が出されるなど、不穏な空気もただよっていた。

hosaka160824-2.jpg

「ブラジル・カリフ国の支援者たち」を自称する組織によるISへの忠誠の誓い

【参考記事】ブラジルの過激派がISISに忠誠誓う、南米で初めて

 いざ、リオ・オリンピックがはじまると、すぐに中東ではスポーツが政治や宗教と不可分であること思い知ることになる。たとえば、内乱中のシリアは自国選手団を派遣したが、その一方でシリアからの難民も、難民選手団の一員としてオリンピックに参加していたのである。競泳バタフライ100メートルに出場した、ベルリン在住のユスラー・マールディーニーは日本のメディアでも取り上げられたのでご記憶の人もいるのではないだろうか。

 また、女子競技でいえば、中東諸国の女性アスリートの「イスラーム的」服装が話題になったのはそのひとつである。とくに、肌の露出が多い女子ビーチバレーでは、頭にヒジャーブ(髪の毛を隠す覆い)、長袖、長いレギンスを着用したエジプト・チームが異彩を放ち、ビキニ姿の相手と対戦中の写真を見ると、とても同じ競技をやっているようにみえないほどであった(冒頭の写真)。

【参考記事】リオ五輪でプロポーズが大流行 「ロマンチック」か「女性蔑視」か

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

元FBI長官起訴で不正行為 連邦地裁が記録の提出命

ビジネス

各国中銀、11月も金購入 26年末までに価格490

ビジネス

BofA、生産性や収益向上へAIに巨額投資計画=最

ワールド

中国のレアアース等の輸出管理措置、現時点で特段の変
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story