焦点:すれ違った関税交渉、米は医薬品と半導体への投資を要求

6月19日、関税を巡る日米の一連の交渉で、日本企業による米国内での工場建設など医薬品や半導体分野への新規投資を米国が求めていたことがわかった。写真は米首都ワシントンで2024年4月撮影(2025年 ロイター/Kevin Lamarque)
Tamiyuki Kihara
[東京 19日 ロイター] - 関税を巡る日米の一連の交渉で、日本企業による米国内での工場建設など医薬品や半導体分野への新規投資を米国が求めていたことがわかった。日本側が最重視する自動車関税軽減への合意を得るために用意していたパッケージにはない要求で、協議が平行線をたどる一因になったとの見方が政府内で出ている。交渉は延長戦に入ったが、両国の立場は隔たりが大きく、切り札を見いだせない政府内には協議を仕切り直すべきとの声もある。
複数の日本政府関係者によると、日本側は4月中旬から計6回の閣僚協議で自動車関税25%から10%程度に引き下げるよう米側に求めた。日本側は当初、主要7か国首脳会議(G7サミット)の間に予定する日米首脳会談での大枠合意を目指し、自動車やエネルギー、鉄鋼などの分野での対米投資の拡大に加え、農産物の輸入拡大や造船の技術協力などトランプ政権から譲歩を引き出すための条件を次々と提示した。
一時は米国側も歩み寄る姿勢を見せたと日本側は解釈したが、米国は最終的に自動車関税の大幅な引き下げには応じられないとの立場を崩すことはなかった。
一方、前出の関係者らの1人によると、米側が交渉で再三求めたのが、医薬品や半導体関連の新たな投資だった。日本側は、米国が医薬品と半導体の製造拠点の国内回帰に日本政府の関与を求めていると解釈したという。
米国の貿易赤字は日本との交渉が始まる直前3月が前月比14.0%増の1405億ドルと過去最大。米国を含む世界の主要製薬会社の多くは、税制優遇措置があるアイルランドに製造拠点を置いており、関税発動前の駆け込み需要で医薬品の輸入が特に増えたのが原因だった。
たが、日本国内には米国に持ち出せるような大規模な製薬工場はない。半導体についてもむしろ経済安全保障強化のため国産化を推進している最中で、 政府関係者は「(米国の要求を)飲むというか、方法がなかった」と話す。
交渉役の赤沢亮正経済再生相は、16日(日本時間17日)の首脳会談直前まで合意の可能性を探った。ラトニック商務長官らに自動車や鉄鋼などの分野での新規投資を代替案として次々と提示。最終的な投資規模は「天文学的な額」(同政府関係者)にまで積みあがったが、米側は納得しなかったという。
米国側の要求や日本政府の対応について、内閣官房はロイターの取材に「貿易の拡大、非関税措置、経済安全保障面での協力などについて具体的なやり取りを行っている。日米双方にとって利益となる合意を実現できるよう、精力的に調整を続ける」とした。
<日米首脳、関税のやり取りほとんどなし>
日本側は交渉の膠着状態を打開する策を見いだせないまま首脳会談を迎えた。日本政府には首脳間の直接対話で進展することを期待する見方もあったが、同関係者によると、会談で石破首相とトランプ大統領が関税について会話する場面はほとんどなかった。
石破政権関係者は 「(赤沢氏の最後の訪米前から)開きがあった。行って何とかなればよかったけど、ならずにそのままトランプ大統領との会談になってしまった」と語る。
石破首相は17日(日本時間18日)の記者会見で、「引き続き日米間で精力的に調整を続ける」と述べたが、日本側にとっての「本丸」である自動車関税の大幅引き下げに合意を得るための切り札は見いだせておらず、交渉の長期化が懸念される状況だ。前出の日本政府関係者は「(医薬品や半導体関連の)米側の要求を飲むことはできない」としたうえで、「一度席を蹴って交渉をリセットするべきだ」と話す。
米国が設定した相互関税の猶予は、7月9日に期限を迎える。石破首相とトランプ大統領は今月24─25日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で再び顔を会わせる可能性がある。前出と別の石破政権関係者の1人は合意の可能性について、「見通せない。せいぜい秋、あるいは年内ではないか」と語る。
(鬼原民幸 取材協力:杉山健太郎 編集:久保信博)