アングル:韓国大統領選、有権者の憤りが革新系野党の李氏を押し上げも

韓国の尹錫悦前大統領が出した戒厳令が国内を混乱に陥れた時、忠清北道北部の人口約13万人の都市、堤川市にあるパク・ミョンジャさん(66)の食堂の売り上げは激減し、市内の多くの有権者にとっての転換点となった。写真は期日前投票を行う人々。仁川国際空港の投票所で5月撮影(2025年 ロイター/Kim Hong-Ji)
[堤川(韓国)2日 ロイター] - 韓国の尹錫悦前大統領が出した戒厳令が国内を混乱に陥れた時、忠清北道北部の人口約13万人の都市、堤川市にあるパク・ミョンジャさん(66)の食堂の売り上げは激減し、市内の多くの有権者にとっての転換点となった。
アジア4番目の経済大国の韓国で政治的な分断が深まっている今、6月3日の大統領選を控えて激戦地域の忠清北道は一段と重要な地域となっている。
パクさんは「戒厳令のようなドラマから遠ざかり、物事を元通りにする必要がある」とし、革新系野党「共に民主党」の李在明候補ならば「その点では問題なさそうだ」と指摘した。
有権者らは次期大統領が、昨年12月3日の尹前大統領の戒厳令以降の景気低迷と全国的な抗議デモの火種となっている経済および政治の打撃を鎮めてくれることを期待している。
李候補が安定を取り戻すことを公約する一方、保守系与党「国民の力」候補の金文洙・前雇用労働相は企業の規制緩和を掲げている。
忠清北道のような激戦地域では、尹氏が戒厳令を発令したことが個人消費低迷や輸出の失速をもたらしたと反発している有権者が多く、与党は票田の大部分を失う可能性がある。
パクさんの大口顧客である地方議会関係者は戒厳令後に5―10人のグループでの夕食会の予約をキャンセルし、パクさんは大打撃を被った。
パクさんは「昨年12月4日に最初にかかってきた電話は、毎年末に当店で夕食をとる常連客からのものだった。なぜキャンセルするのかを尋ねたら、『ニュースを見ていないのか』と言われた」と振り返る。
5月27日に発表された大統領選に関する有権者への世論調査によると、経済再生で李候補を信頼しているとの回答が45%あったのに対し、金候補は32%にとどまった。
金陣営は、李候補が収賄や汚職を含む複数の罪で起訴されていることを批判する一方で、尹氏と距離を置くことに苦心している。
金候補は5月30日、李候補に投票すれば「経済崩壊」を招くと訴え、大統領選を韓国復活の転換点にすることを呼びかけて堤川市などの比較的小規模の都市の有権者を動かそうとしている。
しかし、戒厳令は与党に重くのしかかり続けている。
戒厳令による消費者心理指数(CCSI)の落ち込みは、新型コロナウイルス禍以来の大きさとなった。次期政権下での新たな景気刺激策が実施されるとの期待感から5月のCCSIは101.8となり、戒厳令前の水準まで回復した。
戒厳令という衝撃的な動きは市場を動揺させ、韓国通貨ウォンは24年にアジア地域で最もパフォーマンスの悪かった通貨の1つとなった。その後はトランプ米大統領が輸入品に懲罰的な関税を課す政策が、企業心理を傷付けた。
半導体ブームや、ここ数年の資本市場改革による景気の追い風が弱まりつつある今、韓国経済にはひずみが生じつつある。
次期大統領は25年第1・四半期の経済縮小に直面し、トランプ政権による輸入品への高関税を回避するための交渉を管理し、食品高騰と消費低迷で後退している国民の生活水準の押し上げが求められる。
大統領選について有権者のチョン・スヒョンさん(59)は「住宅供給と国内市場の活性化をもっと真剣に公約に掲げてほしかった」とし、「そのような綿密な検討が欠けているようで、いささか失望している」と話した。
アナリストらによると、韓国の消費は大きな打撃を受けているため、有権者は経済に関する公約に注意を払っていた。
シティ・リサーチのキム・ジンウク氏は、李候補が勝利すれば「短期的にはより迅速な経済成長」に拍車をかける可能性があるとし、「共に民主党」は「中低所得層に対する政策や支援に比較的熱心に取り組むだろう」との見方を示した。