ニュース速報
ワールド

「兄はどこに」、手掛かり求め悪名高いアサド政権刑務所に泊まり込むシリア女性

2024年12月12日(木)13時30分

12月11日、 シリアのアサド政権が反体制派の攻勢により崩壊したというニュースを耳にした時、ハヤト・アル・トゥルキさん(27)は真っ先に「と殺場」として悪名高いセドナヤ刑務所に向かった。写真は同日、刑務所内の収容施設を確認するトゥルキさん(2024年 ロイター/Ammar Awad) 

Jehad Shalbak

[ダマスカス 11日 ロイター] - シリアのアサド政権が反体制派の攻勢により崩壊したというニュースを耳にした時、ハヤト・アル・トゥルキさん(27)は真っ先に「と殺場」として悪名高いセドナヤ刑務所に向かった。そこで拘束されているはずの兄や5人の親戚の生存を祈りながら道を急いだ。

それから4日間、トゥルキさんは同刑務所の隅々まで探して歩いたが、いまだに彼らの所在について手掛かりを得られていない。人権団体によると、同刑務所では拷問や処刑が頻繁に行われていた。

「もちろんここで寝ている。家には一度も帰っていない」とトゥルキさんは言う。兄やおじ、いとこが見つかるのではないかと期待していたが、彼女のように刑務所を探して歩く他の何十人ものシリア人の親族同様に、拘束されていたはずの彼らの姿はみつからない。

トゥルキさんが刑務所で見つけた今年10月1日付の文書には、さまざまなカテゴリーの収容者7000人以上の名前が記載されていた。

「彼らはどこにいるのだろう。この刑務所にいるはずではないのか」と彼女は言う。解放された収容者の数は、リストの人数をはるかに下回るという。

反政府勢力の電撃的な進撃で、父子2代で50年続いたアサド政権が8日に崩壊した直後に、同政権の無慈悲な収容所システムに拘束されていた数千人の収容者が解放された。その多くは、何年も前に彼らが処刑されたと思っていた親族に涙で迎えられた。

セドナヤ刑務所には、絞首刑に使われたとみられる絞首縄が残っており、訪れた者に収容者がここで過ごした暗い日々を思わせた。

「刑務所全体を捜索した。独房に入って5分も経たないうちに息苦しくなってしまった」

トゥルキさんはこう話すと別の独房に入って所持品を探し始めた。

「これは兄の所持品だろうか。彼の匂いがするだろうか。それとも、こっちが彼の毛布だろうか」──。

トゥルキさんの兄は、14年前に拘束されたままだという。

人権団体はシリア国内の刑務所での大量処刑について報告しているほか、絞首刑になった囚人用の新たな火葬場がセドナヤに設置されたと米国が2017年に公表している。拷問行為は広く記録されている。

アサド政権を打倒した反政府勢力の指導者ジャウラニ氏は11日、アサド政権下で拷問や殺害に関わった者は誰であれ追跡され、恩赦は論外だと述べた。

「我々はシリアで彼らを追跡し、逃亡した人々の引き渡しを各国に求め、正義を実現する」と、同氏はシリア国営テレビのテレグラムチャンネルで発表した声明で述べた。

それは、兄を見つけるという希望が薄れつつあるトゥルキにとって、ほとんど慰めにはならなかった。

「釈放された囚人たちの写真を見ると、骸骨のようだった。これでは兄がどんな顔をしているのか分からない」と、トゥルキさん。

「ここには人がいたはずだ。これらの衣類や毛布は誰のものだというのか」

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中