ニュース速報
ワールド

アングル:タリバン政権下で奮闘する女性ユーチューバー、生活の糧に

2024年04月21日(日)08時06分

 その居間の様子は、かつて彼女が愛した華やかできらびやかな撮影現場とかけ離れていた。それでもイスラム主義組織タリバンが権力を握り、女性の外出がますます難しくなっている昨今のアフガニスタンでは、女性が自宅で動画投稿サイト「ユーチューブ」の動画を作って公開し、収入を得ることにはそれなりにメリットがあると、かつて映画やテレビに出演していたセタイシュ・ハヤトさん(21)は考えている。写真は2022年、カブールで生活補助を受けるために列に並ぶ避難民の女性たち(2024年 ロイター/Ali Khara)

Rohullah Talaash Orooj Hakimi

[カブール 17日 トムソン・ロイター財団] - その居間の様子は、かつて彼女が愛した華やかできらびやかな撮影現場とかけ離れていた。それでもイスラム主義組織タリバンが権力を握り、女性の外出がますます難しくなっている昨今のアフガニスタンでは、女性が自宅で動画投稿サイト「ユーチューブ」の動画を作って公開し、収入を得ることにはそれなりにメリットがあると、かつて映画やテレビに出演していたセタイシュ・ハヤトさん(21)は考えている。

タリバンは2021年に政権を掌握し、女優が出演するテレビドラマの放映を禁じ、ニュース番組の女性キャスターにヒジャブ(スカーフ)の着用を命じるなど女性の行動を厳しく制限。ハヤトさんは、規制されるまで新進気鋭の女優として活動していた。今では料理やファッション、メイクアップから家族との寸劇まで、月に約30本の動画を制作し、ユーチューブにアップしている。

アフガニスタンでは生計を立てるためにオンラインを活用する女性ユーチューバーが増えている。その中でハヤトさんは最も成功した女性の一人だ。

「カメラや照明、クレーン、派手な小道具など特別な機材は一切使わない。携帯電話で録画している」と語るハヤトさん。昨年9月に開設したチャンネルは、登録者数が2万人余りに達している。

ユーチューブのせいで危険な目に遭ったことがあるため、たまに戸外で撮影する際には安全に配慮して医療用マスクとサングラスを着用する。収入金額は明らかにしなかったが、家族を養うには十分だという。

諸外国の経済制裁によってアフガニスタンの銀行は取引が厳しく制限されている。このため、ほとんどのユーチューブ・コンテンツ・クリエーターは、海外にいる友人に送金会社経由で利益を送金してもらっている。ハヤトさんの視聴者が多いのは米国、カナダ、デンマーク、オーストラリアだが、トルコ、パキスタン、アフガニスタンでも視聴されているという。

<タリバンの支配>

タリバンは女性の就労や教育を厳しく制限している。

「女性がメディアの分野ではほとんど働けない今の状況では、ユーチューブは良い選択肢だし、生活費も賄える」と語るマイナ・サダトさんは元法学部の学生。女性が大学で学ぶことを禁じられた後、ユーチューブ向けの動画作成を始めた。

女性の権利を求める活動家、ファウジア・クーフィさんは、ユーチューブは女性にとって収入源であるだけでなく、自分のメッセージや経験、願いを発信する手段にもなっていると指摘。「アフガニスタンの女性はみんな携帯電話を持ち、世界とつながっている。自信を手に入れた世代を押しとどめることなどできない」と期待を口にした。

しかし、ハヤトさんなど女性ユーチューバーの多くは情報文化省の放送免許を保有しておらず、チャンネルが閉鎖されるのではないかと恐れている。タリバン政権はソーシャルメディアのインフルエンサーやコンテンツ制作者に放送免許の保有を義務付けている。

「タリバンはアフガニスタンで活動する全てのユーチューバーに免許取得を義務付けようとしている」と、アフガニスタン・ユーチューブ連合の副代表、シャダブ・グルザールは指摘。ひとたびライセンスを取得すれば、管理が厳しくなり、取り決めに従って活動せざるを得なくなると警戒感を示した。

<生き残りを賭けて>

タリバンは女性ユーチューバーについて、ジャーナリズムの学位と3年間の実務経験など免許取得基準を満たしていれば何の問題もないと断言した。だが、タリバンが権力を握る前に勉強したり、仕事をしたりしていなかった女性がこうした要件を満たすのは極めて難しい。

情報文化省の報道官によると、国内の女性ユーチューバーの数は不明だが、運営されているチャンネルは1000余りで、免許の発行は250件。

グルザール氏の話では、ユーチューブは多くの女性にとって生活費を賄う重要な収入源となっている。国内ユーチューバーの10―15%程度が月に1500―2000ドルを稼ぎ、半数強が平均500ドルを手にしている。1人当たり国内総生産(GDP)が350ドル強のアフガニスタンではかなりの金額だ。

女性たちは、在宅でのユーチューブ活動が生き残りの鍵だと訴える。

元キャスターのアイーシャ・ニアジさんと彼女の夫は、ジャーナリストとしての仕事を断念せざるを得なくなり、家族を養うためユーチューブを活用することにした。

「アフガニスタンの今の状況で、スクリーンに身をさらすことはリスクを伴う。けれど収入を得るために何かせざるを得なかった」と話すニアジさんは、ユーチューブで週に3回、文化や歴史に関する動画をアップし、月に約300ドルの収入を得ている。「母親として、双子の子どもを飢えさせることはできなかった」と心境を明かした。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBが0.25%利下げ、6会合ぶり 雇用弱含みで

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、年内0.5%追加利下げ見込む 幅広い意見相

ビジネス

FRB独立性侵害なら「深刻な影響」、独連銀総裁が警
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中