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アングル:「米国第一主義」衰えず、トランプ氏国連演説で露呈

2017年09月21日(木)17時50分

 9月19日、ニューヨーク国連本部で行われたトランプ米大統領(写真)の初演説は多くのシグナルを発したが、特に明白だったのは、首席戦略官だったスティーブ・バノン氏が政権を去っても、「米国第一主義」に基づく外交政策が弱まることはない、ということだ(2017年 ロイター/Shannon Stapleton)

[ニューヨーク 19日 ロイター] - ナショナリストが優位に立った。ニューヨーク国連本部で19日行われたトランプ米大統領の初演説は多くのシグナルを発したが、特に明白だったのは、首席戦略官だったスティーブ・バノン氏が政権を去っても、「米国第一主義」に基づく外交政策が弱まることはない、ということだ。

誕生から8カ月が経過したトランプ政権の特徴は、国内外の問題において、さまざまな方法を駆使してトランプ大統領を動かそうとする、世界主義者(グローバリスト)と国家主義者(ナショナリスト)の顧問たちが繰り広げるドラマチックな主導権争いだ。

バノン氏が先月政権を去ってから、ニューヨークのビジネスマンだったトランプ大統領の中心的な支持者の一部が懸念していたのは、政権内部で国際主義派が勢力を盛り返すのではないかということだ。だが、外交政策では、その心配はなさそうだ。少なくとも19日においては。

初参加となった国連年次総会において、トランプ大統領が国家主権を執拗に擁護したことは、米大統領選で研ぎ澄まされた政策への傾倒が全く衰えていないことを示し、臆面もなく米国第一主義を掲げる「トランプ・ドクトリン」を世界に披露した。

「現政権の最たるナショナリストはドナルド・J・トランプ氏だ。彼は自分が言わんとしていることを自覚している」と語るのは、トランプ大統領を支持するニュート・ギングリッチ元米下院議長だ。

ギングリッチ氏によると、トランプ大統領の国連演説は、ツイート以上のものによって定義されるドクトリンを、同大統領が抱いていることを示したと指摘。そのドクトリンのルーツとなるのは、レーガン元米大統領やフランスのドゴール元大統領、英国のサッチャー元首相の保守的な哲学だという。

「それは一方的な米国のナショナリズムではない。非常に、非常に重要な主権に再び軸を置くことだ」とギングリッチ氏は語った。

北朝鮮から攻撃を受ければ、同国を「完全破壊」すると脅したトランプ大統領の演説は、大統領の敵と味方を二分している。

戦争の脅威と外交への攻撃によって、トランプ大統領は国際秩序を一変させていると、民主党のオバマ前大統領の副補佐官を務めたベン・ローズ氏は指摘する。

その一方で、いがみ合いがちなトランプ大統領の顧問たちのあいだに意見の相違は見られないと、ある政権当局者は明かした。

「国家安全保障会議の高官らが最も協力して作成した大統領の演説原稿だった」とこの当局者は語った。

同当局者によると、大統領が演説後、ティラーソン国務長官は起立して、主なスピーチライターであるスティーブン・ミラー大統領補佐官(政策担当)に握手を求め、「よくやった」と伝えたという。ミラー氏はバノン氏の同調者で、ナショナリストと見られている。それに比べると、ティラーソン氏はグローバルな考えの持ち主である。

「トランプ氏がトランプ氏であろうとしているだけだ」と語るのは、米大統領選でトランプ氏の選挙参謀を務めたサム・ナンバーグ氏だ。政権内の「ナショナリスト対グローバリスト」の構図は、移民政策のような国内問題においてより顕著になっていると同氏は指摘した。

トランプ政権はまた、外交政策においても複雑なシグナルを発している。

グローバリストであるゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長は今週、再交渉によって米国の利益にとって都合が良くならない限り、トランプ大統領は地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」から離脱する意向に変わりがないことを、同盟諸国に対して明確にしなくてはならなかった。

単刀直入な物言いで知られるトランプ大統領だが、国連では一部の人たちをあぜんとさせたようだ。大統領は演説のなかで、オバマ前政権が同盟国と結んだイラン核合意を非難したほか、世界の一部は「地獄に向かっている」との見方を示したからだ。

民主・共和の両政権で中東問題の交渉役を務めたアーロン・デービッド・ミラー氏は、トランプ大統領の演説について、米同盟諸国は、同大統領が世界で主要な役割を引き受けることに対する慎重さの兆候だと解釈するだろうと指摘。

「最大の問題である北朝鮮もイランも、米国第一主義では解決不可能だ」とミラー氏。演説は、トランプ政権内のグローバリストたちは「使い捨て」で、トランプ大統領を突き動かしているのはいまでもナショナリズムであることを示していると、同氏は付け加えた。

(Jeff Mason記者、Steve Hollan記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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