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焦点:トランプ関税、米側がコスト負担の実態 じわり値上げの波

2025年10月14日(火)18時38分

 米政府の輸入関税コストは、主に米国の企業と消費者が負担していることがこれまでの分析で判明した。カリフォルニア州オークランドで8月4日撮影(2025年 ロイター/Carlos Barria)

Francesco Canepa Howard Schneider

[フランクフルト/ワシントン 13日 ロイター] - 米政府の輸入関税コストは、主に米国の企業と消費者が負担していることがこれまでの分析で判明した。トランプ大統領の主張とは正反対で、インフレ退治を目指す米連邦準備理事会(FRB)にとって悩ましい事態をもたらしている。

トランプ氏が、保護関税措置の対価を支払うのは外国であり、外国の輸出業者は米国という世界最大の消費市場で足場を失いたくないので自らがコストを吸収することになると「予言」したのは有名な話だ。

ところが、学術研究や各種聞き取り調査、企業側のコメントなどを踏まえると、トランプ氏による関税措置導入開始から現在に至るまで米企業がその対価を払い、一部を国内消費者に転嫁しており、今後は値上げの波が広がる公算が大きいという展開が見えてくる。

ハーバード大学のアルベルト・カバロ教授は「コストの大半は米企業が背負っているように見受けられる。消費者物価への緩やかな転嫁も見られ(物価には)明白な上昇圧力が存在する」と指摘した。

<日本だけが例外>

カバロ氏や研究者のパオラ・ラマス氏、フランコ・バスケス氏は、米国のオンラインと実店舗の主要小売事業者が扱う35万9148品目の価格を調査。その結果、トランプ氏が関税強化を始めた3月初め以降で、輸入品価格は4%上昇した一方、国内製品価格の上昇率は2%だったことが分かった。

輸入品のうち値上がりが最も大きかったのは、コーヒーなど米国内で生産ができない製品、あるいは最も関税率が高いトルコなどから輸入される製品だった。

もっともこれらの値上がりの程度は、対象品に適用された関税率に比べれば総じてはるかに小さく、売り手の小売事業者がコストの一部を吸収している様子がうかがえる。

一方で関税を除外した米輸入物価は、外国の輸出業者がドル建てで製品価格を引き上げ、ドル安による影響の一部を米国の買い手に転嫁していることが示されている。

エール大予算研究所は「これが示唆するのは、外国生産者は米国の関税(コスト)をほとんど吸収していないという事態で、以前の研究調査とも整合性がある」とコメントした。

国別の米国向け輸出品価格指数も同じ構図で、中国とドイツ、メキシコ、トルコ、インドからの輸出品価格はいずれも上昇。例外は日本しかない。

<FRBの悩み>

米国の平均関税率を約2%から推定17%まで押し上げたトランプ氏の関税措置は全て出尽くしたわけではなく、対応する側の取り組みも依然続いている。毎月およそ300億ドルに上るコストの負担を輸出業者、輸入業者、消費者が押しつけ合っており、状況が決着するにはなお何カ月もかかるだろう。

カバロ氏は「この価格上昇は一時的と想定すべきでないが、各企業は打撃を和らげる方法を見つけ出そうとしている」と説明し、値上げはできるだけ時間をかけて行われているとの見方を示した。

欧州の自動車メーカーは今のところ価格への影響をより多く吸収しようとしてきた半面、消費者向け製品を手がけるプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やエシロールルックスオティカ、スウォッチ・グループなどは値上げに動いている。

ロイター・トラッカーの調査によると、トランプ氏が貿易戦争を開始して以来、欧州・中東・アフリカ地域の企業の約72%は値上げを警告。利益率悪化を警告したのは18社にとどまった。

別のロイターの分析では、中国発の衣料品ネット通販「SHEIN(シーイン)」や、米アマゾン・ドット・コムといった電子商取引(EC)プラットフォームでは既に、衣料から電子機器まで米国で販売される中国製品が相当値上がりしている。

中国政府は、主要産業における過当競争排除や場合によっては生産設備削減を含めた、いわゆる「反内巻政策」を推進しているので、太陽光発電設備などの供給が細り、米国向け製品の値上がりに拍車がかかってもおかしくない。

これらは全て米国の物価上振れの素地となる。FRBは9月、労働市場の弱まりを懸念して利下げを再開したものの、政策担当者の間では関税によるインフレが一過性に終わるかどうか意見が割れている。

トランプ氏の意向を受けてFRB理事に就任したスティーブン・ミラン氏は、関税がインフレを引き起こす要因ではなく「一部製品価格の比較的小幅な変更」を懸念すべきでないと主張する。

しかし、ボストン地区連銀は関税がコア物価上昇率を75ベーシスポイント(bp)押し上げると試算している。

パウエルFRB議長は、直近のコア物価上昇率2.9%を分解すると関税による押し上げが恐らく30-40bpだが、その影響は「比較的短期間」で消えるはずだと発言した。

ピーターソン国際経済研究所は、来年にかけての物価上昇率は、関税がなかった場合に比べて1ポイントほど高くなるものの、その後は元に戻るとの予測を示した。

<本格的影響はこれから>

だが、米国以外の世界に喜べる理由は見当たらない。

米国の消費者が値上げに対処するのに苦戦を強いられるのに伴い、輸出需要は減速する公算が大きい。S&Pグローバルが調査した世界中の企業購買担当者の新規輸出受注に関する指数は、6月以降縮小圏に陥った。

7月の欧州連合(EU)全体の対米輸出は前年同月比で4.4%減少し、8月のドイツの対米輸出は20.1%減と落ち込んだ。

世界貿易機関(WTO)は、来年のモノの貿易は世界全体で0.5%の伸びにとどまると予想し、米関税の影響が遅れて顕現化することを理由に挙げた。ドイツのシンクタンク、キール研究所が動向を追っている米国の出荷データも下降トレンドが明確だ。

これらは全て、関税導入をにらんだ前倒し発注の反動が出た面はあるかもしれない。それでも、今後の貿易状況に警戒信号を点滅させる要素でもある。

オランダのINGは、向こう2年でEUから米国へのモノの輸出は17%減少し、EUの総生産(GDP)を30bp押し下るとの見通しを示した。

INGのエコノミスト、ルーベン・デウィッテ氏は「想定される米関税の影響はまだ(本格的には)現実化していない。この先数カ月でよりはっきりしてくると見込んでいる」と語った。

ロイター
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