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アングル:意識される日銀10月利上げ、「ハト派」委員も姿勢に変化

2025年09月29日(月)18時01分

 日銀が10月にも利上げに踏み切る可能性が市場関係者の間などで意識されている。日銀本店前で1月23日撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)

Takahiko Wada

[東京 29日 ロイター] - 日銀が10月にも利上げに踏み切る可能性が市場関係者の間などで意識されている。9月の金融政策決定会合で高田創、田村直樹両審議委員が政策金利の据え置きに反対したためで、日銀内でも利上げ提案者が2人いたことに注目する向きがある。29日に講演した野口旭審議委員は「政策金利調整の必要性がこれまで以上に高まりつつある」と従来のハト派姿勢から一転してタカ派的なスタンスを示しており、日銀が次回会合の10月末まで米国経済の状況を確認しながらどう情報発信するかが焦点になる。

<10月会合は「ライブ会合」>

SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは、2人の審議委員の反対によって10月会合が「ライブ会合」になり、利上げもあり得ると予想するようになった。今年1月の利上げに先立つ昨年12月会合で田村委員が利上げ提案した経緯を踏まえ、9月会合での田村委員の反対を10月利上げの「先行指標」(野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジスト)と解釈する向きもある。

野村証の岩下氏は、植田和男総裁が米国の関税政策の影響について「もう少しデータを見たい」と述べたことに注目している。日銀の2024年3月のマイナス金利解除と今年1月の利上げ時には、植田総裁が情勢を「もう少し見たい」と発言した1―3カ月後にマイナス金利解除や利上げが決まったからだ。

植田総裁は9月の決定会合後の会見で、強気な物価観を示した両委員の主張への見解を問われ「米国の関税政策の影響等がこれから一段と出てくる可能性がある中で、景気に対する下振れリスク、それを通じて物価に対する下振れリスクも意識しないといけない」と述べた。慎重な姿勢に終始した植田総裁だが、市場は10月の利上げを織り込みつつある。東短リサーチ/東短ICAPによれば、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む10月会合での利上げ確率は6割程度まで上昇した。

日銀の考えに詳しい関係者からは、今後発表される経済指標で米国の景気後退懸念がさらに和らぎ、日本の製造業が米国の関税による打撃を乗り切れることが示されれば、利上げ支持派がさらに増えるかもしれないとの声が出ている。タカ派な委員は今回反対した委員のほかにもすでにいるという。 

元審議委員の桜井真氏は、10月会合で利上げが決まる可能性について、基本的には「半々」だと予想する。2人の審議委員の利上げ提案によって10月の可能性が55%、12月の可能性が45%と若干確率が変化したとみている。日銀が利上げに「やや前のめりになっているのではないか」と指摘する。

<委員7人は同調せず>

日銀内には、7人の委員が同調しなかったことを重視する向きもある。国内経済、海外経済、物価と点検すべき項目が広い中で、残りのメンバーが一斉に動くことは考えづらいとの見方もある。

ただ、29日に札幌市で講演した野口審議委員は「わが国の各種経済指標を確認すると、2%の『物価安定の目標』達成は着実に近づいている」として「政策金利調整の必要性がこれまで以上に高まりつつある」と踏み込んだ。「わが国の金融政策は今、状況の見極めが必要な局面に差し掛かっている」とも述べた。5月、宮崎市での講演で「ほふく前進的なアプローチ」との表現を用いて、緩やかな金利調整を求めていたこととは対照的だ。

植田総裁が「もう少しデータを見たい」と言った米国経済の温度を測る上で最重要となる雇用統計は、10月会合までに一度しか発表がない。しかし、日銀内では、雇用統計が一度しかないからと言って利上げを排除するのではなく、米国の他の雇用関連指標や米連邦準備理事会(FRB)高官の発言などで雇用情勢の全体観を予測し、10月会合に臨むとの声が出ている。

元審議委員の安達誠司氏は、米関税の影響が企業の設備投資や来年の賃上げにもたらす影響を重視するこれまでのロジックに従うなら10月の利上げは厳しいが、植田総裁がこれまでのロジックを転換して10月会合で利上げを決める可能性も「なきにしもあらずではないか」と話す。

(和田崇彦 取材協力:木原麗花 編集:久保信博)

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