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アングル:日本企業、関税率確定もなお変数 値上げや米国生産視野

2025年07月28日(月)07時55分

 7月28日、 日本企業にとって不透明要因だった日米の関税交渉が決着した。都内で2024年1月撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)

Kentaro Okasaka Ritsuko Shimizu

[東京 28日 ロイター] - 日本企業にとって不透明要因だった日米の関税交渉が決着した。税率が当初の想定より低下したものの、4月の前と比べれば高く、各社はコスト削減で吸収し切れない分を値上げや現地生産などで対応することを視野に入れている。東南アジアから米国へ輸出する分の関税や、米中摩擦の行方など、考慮すべき変数もまだ多い。

東京証券取引所によると、3月期決算企業で期初に今年度の業績見通しを開示した上場企業は2111社と、前年の2167社をやや下回った。米国の関税措置で合理的な算定が困難として開示を見送った企業の1つ、信越化学工業は今月24日に4ー6月期の実績を発表するのに合わせて2026年3月期の予想を出した。

日米が23日に合意した税率は相互関税、自動車関税とも15%。相互関税は8月1日から適用されるはずだった25%から10ポイント、自動車関税は4月から導入された27.5%から12.5ポイント下がる予定だ。

「いろいろな創意工夫で影響を緩和することが可能な水準だ」と、日本貿易振興機構(ジェトロ)の石黒憲彦理事長は24日の記者会見で語った。「関税率がなかなか決まらず、不確実性から意思決定ができないことによる機会損失も相当大きくなっていた。そういう意味では(交渉期限だった)8月1日を待たずに決着したことはとても良かった」と述べた。

だが、同じ日に決算を発表したキヤノンは、関税の影響を理由の1つに25年12月期通期の連結営業利益(米国会計基準)予想を4660億円から4600億円へ下方修正した。田中稔三・最高財務責任者(CFO)は、「社内で対策を考える時間的な余裕ができたことは大変プラス」としつつ、「15%でも大変大幅なコストアップで、個別の会社が努力できるぎりぎりの線ではないか」と述べた。

キヤノンにとって米国は売上高の3割弱を占める最大の市場。田中CFOは、米国内に製造拠点としての機能を果たせる土地・設備はあるものの、原材料や部品は輸入せざるを得ず、そこに関税がかかるため、「現地生産はほとんど現実的ではない」と話した。

昨年から米大リーグ(MLB)、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手を広告塔に起用し「お~いお茶」の米国輸出に注力する伊藤園も厳しい見方を変えていない。「コストが相互関税によって上昇する。企業努力だけでは上昇分を吸収し続けることが困難な状況が予想され、消費マインド減少への懸念も変わらない」(広報担当者)とする。引き続き米国での価格転嫁や現地生産などを検討していく方針という。

一方、半導体製造装置のSCREENホールディングス、工作機械のファナックは値上げで関税のコスト上昇分をカバーすると明言。SCREENの近藤洋一副社長は「競合の装置もないため基本的に心配はしていない」、ファナックの山口賢治社長は「それ(値上げ)に見合った価値を提供していくことに今以上に力を入れていく必要はあるが、それをやり切れると感じている」と25日の決算会見でそれぞれ語った。

<相対的な関税率>

日本の税率が確定しても、米国は各国に関税をかける方針のため状況は複雑だ。ジェトロ・アジア経済研究所の磯野生茂主任研究員は「米国の関税政策の各国への影響は単に関税率の絶対水準だけでなく、中国や他国と比較した『相対的な関税率』によって大きく左右される」と指摘する。

三菱自動車工業の松岡健太郎CFOは24日の決算発表で、「関税率が低く抑えられたという点でポジティブな要素を含んでいる」としつつ、「関税が事業に与える影響は多岐にわたり、一概に楽観視できる状況ではない」と話した。各社が米国などでの販売減少を他地域で補おうとする動きも進んでおり、「競争は一段と激しさを増している」という。

米国と中国の関税の応酬が決着していないことも気掛かりだ。内需が低迷したままの中国は米国への輸出もしづらく、国内で過剰になった製品が東南アジアなどに安値で出回り、世界的に市況を下げている。

信越化学が開示した今年度の業績見通しは営業利益が前年度比14.4%減の6350億円。住宅に使われる主力の塩化ビニールの市況が戻らないことが減益の主要因としている。斉藤恭彦社長は「米国の関税政策とそれに対する関係国の対応、米ドルの信任の揺らぎなど通年の業績予想を難しくする要因が依然として複数ある」と語った。

(岡坂健太郎、清水律子、白木真紀 編集:久保信博)

ロイター
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