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アングル:欧州IPO、投資家の関心なお低調 関税や中東情勢の影響尾を引く

2025年07月08日(火)09時37分

 欧州では、トランプ米政権の関税措置や中東情勢緊張に伴う市場の動揺がある程度落ち着き、株式に資金が戻りつつあるが、投資家の新規株式公開(IPO)に対する関心はなお低調のようだ。写真は2016年10月、フランクフルト証券取引所で撮影(2025年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

Charlie Conchie Emma-Victoria Farr

[ロンドン/フランクフルト 4日 ロイター] - 欧州では、トランプ米政権の関税措置や中東情勢緊張に伴う市場の動揺がある程度落ち着き、株式に資金が戻りつつあるが、投資家の新規株式公開(IPO)に対する関心はなお低調のようだ。

ロイターが取材した7人のIPOアドバイザーは、投資家が最も懸念するのは、イスラエルとイランの戦争のような紛争がまた起きる恐れや、新規上場銘柄のその後の値動きが読み切れない点だと説明する。

EYで英国とアイルランドのIPO分野を統括するスコット・マクビン氏は「投資家層には関税問題と中東の戦争に起因する若干の不安や影響が残っている」と指摘した。

また複数のアドバイザーによると、IPOを検討している企業側が、自分たちの期待より低い評価を示され、それを受け入れたくないという事情も働いている。

<相次ぐ上場延期>

ドイツでは医療業務のデジタル化を手がけるブレインラボが6日までの週に「地政学的な不確実性」を理由としてIPOの延期に動いた。

製薬のスタダは3月に不安定な市場環境を挙げてIPO先送りを決め、自動車部品販売のオートドックは6月に理由を示さずやはりIPOを延期した。

世界的な穀物商社グレンコアが支援するコバルト・ホールディングスはロンドンで今年最大規模となるIPOを計画していたが、事情に詳しい関係者は以前ロイターに、十分な投資家の需要を確保できなかったと明らかにした。

ブレインラボのIPOに関係したある人物は、最近の上場延期によって、IPO市場の扉を再びこじ開けようとする企業にはハードルが高くなったと話す。

今年に入ると、米国資産保有を減らそうとする投資家が欧州株により多くの資金を振り向けている。だがそうした資金はIPOでなく大型株に流入している、と株式資本市場バンカーの1人は解説した。

こうした投資家の態度は、ドイツの香水販売企業ダグラスの株価が上場以降で12%余り急落したことなども一因だ。

結果としてディールロジックのデータを見ると、欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域で今年上半期に実施されたIPO件数は前年同期の59件から44件に減り、調達総額も141億ドルから約55億ドルに落ち込んだ。

シティのEMEA株式資本市場シンジケート責任者を務めるナビーン・ミッテル氏は、このような厳しい環境下で、企業のIPO計画は評価額算定や各種条件などで少しのミスも許されなくなっていると分析した。

<夏休み明けに期待>

アドバイザーからは、下半期になれば一連の大型案件が実施され、IPO市場活性化につながると期待する声も聞かれる。

想定されるのはスタダのIPO復活や、ドイツ取引所の調査・テクノロジー子会社ISSストックスや不動産ポータルのスイス・マーケットプレイス・グループなどが上場する可能性だ。

スタダはIPOを含めてあらゆる選択肢を検討中。スイス・マーケットプレイスは「高いレベルのIPO準備態勢」を実現するための最初の取り組みを始めたとしている。

ドイツ取引所は、ISSストックスのIPOを考えているものの、まだ何も決まっていないと述べた。

ある株式資本市場バンカーは、欧州のIPO市場全般は、株式への資金流入やボラティリティーの低下を追い風として地合いは良好に見えると主張。「上場候補企業はいずれも関税の打撃がないか、もしくは小さいので、夏が終わればIPOの扉が再び開かれると楽観視している」と付け加えた。

ロイター
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