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アングル:日本がアジアでLNG市場構築、国内需要減でも購買力維持へ

2024年08月03日(土)08時38分

  8月2日、液化天然ガス(LNG)の買い手である日本の電力やガス大手が、増加を見込む余剰在庫の販売先を開拓しようとアジアで投資を活発化させている。写真は富津市沖をえい航されるLNGタンカー。2017年11月撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)

Katya Golubkova Yuka Obayashi

[東京 2日 ロイター] - 液化天然ガス(LNG)の買い手である日本の電力やガス大手が、増加を見込む余剰在庫の販売先を開拓しようとアジアで投資を活発化させている。原発再稼働や再生エネルギーの拡大で国内需要が減る一方、エネルギー安全保障の観点からLNGの調達量を維持したい考えで、契約済み燃料を柔軟に売買できる市場をアジアで構築する。

東京電力ホールディングスと中部電力が共同出資するJERAや東京ガス、大阪ガス、関西電力を筆頭に、日本企業が30以上のガス関連プロジェクトに出資や原料供給、あるいは調査に参加していることが、米シンクタンクのエネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)とロイターのデータから分かった。

対象地域はバングラデシュ、インド、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、台湾、タイ、ベトナムに及び、すでに稼働中のものもあれば準備段階のものもある。

    東京ガスは今年、ベトナムで1.5ギガワットのLNG火力発電事業の調査に乗り出すとともに、フィリピンのLNG基地事業に出資すると発表した。丸紅と双日は4月、インドネシアで1.8ギガワットのLNG火力発電所の運転を開始した。

    「日本のLNG需要は不透明だが、政府は長期的な安定供給確保を望んでいる」と、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)で電力市場を分析・調査する信岡洋子シニアアナリストは言う。「独自にトレーディング機能を開発し、アジア全体のガス市場を構築することは、エネルギー安全保障を高め、LNG余剰のリスクをヘッジするのに役立つだろう」と話す。

    <年間取扱量1億トン>

    日本は2011年の福島第1原発事故後に原発の稼働をすべて停止し、火力発電燃料であるLNGの輸入を増やすとともに、世界のLNG開発事業への参画を加速した。しかし、次第に原発再稼働が進み、再生可能エネルギーの利用が広がるにつれ、自国消費向けのLNG輸入を減らすようになった。23年度のLNG取扱量は前年比8%減少し、09年以来最低となった。

    経済産業省は20年、日本企業のLNG取扱量を30年に年間1億トンとする目標を掲げた。国内需要は今後減るものの、世界のLNG市場を主導し、日本の調達力を保つため、アジアで需要を創出して第三国向け取引を増やそうとしている。

    経産省はロイターの取材に、「アジアにおけるカーボンニュートラル、ゼロエミッションの達成に向けてはさまざまな道筋がある」とコメント。「ガスとLNGは、再生可能エネルギーや省エネとともにその道筋で役割を果たすことができる」とした。

    東京ガスは、アジアのLNG開発プロジェクトに投資家として参画するなどし、LNGのトレーディング取扱量を現在の約300万トンから30年に500万トンへ増やす計画。同社は「こうしたプロジェクトにLNGを販売するチャンスが生まれ、当社のLNG取引量の増加に寄与することになる」としている。

    19年以降に日本企業が投資したアジアの新規LNG受入基地事業はバングラデシュ、インドネシア、フィリピンで、国際ガス連合のデータをもとにロイターが算出したところ、取扱能力は計1620万トンに上る。さらに、30年までにはベトナムとインドで日本が出資する基地が建設され、取扱量は年間1300万トン上積みされる。

    エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、日本の第三国向けLNG取扱量は22年度に約3160万トンと、18年度から倍増した。一方、7100万トンだった国内向けは20年代終わりまでに約5000万トンに減り、JERA、東京ガス、大阪ガス、関西電力は1200万トンの供給超過になる可能性があるとIEEFAは試算している。

    <環境団体は非難>

    23年に日本を抜き、世界最大のLNG輸入国となった中国も世界でトレーディングを強化しており、競争が激しくなりそうだ。最大手のペトロチャイナ(601857.SS)は、今年の中国のLNG輸入量が前年比最大12%増え、8000万トンに達すると予測し、一部は第三国に転売されるとみている。

LSEGの信岡氏は、「2030年までの中期でみると、新たな供給の波により次の弱気サイクルが始まるため、競争が激化する可能性がある」と話す。

    環境団体は日本に対し、アジアの国々が石炭からガスではなく、再生エネルギーへ直接移行する手助けをすべきだと声を強めている。中部電力と東京電力の株を保有する国際環境NGOの豪マーケット・フォースはJERAに対し、アジアの計画を見直し再生エネルギーに注力するよう求めている。

    「世界的な気候変動対策への最大の脅威のひとつは、アジアで提案されているLNGを使った電力インフラ建設だ」と、マーケット・フォースのウィル・ヴァン・デ・ポル最高経営責任者(CEO)は言う。

    JERAはロイターの取材に、「他の化石燃料による発電と比較して二酸化炭素の排出量の少ないガス火力発電は、発電出力が不安定な再生可能エネルギーを機動的に支えるという補完関係にある」とコメント。「脱炭素を達成するために不可欠」とした。

(Katya Golubkova、大林優香 取材協力:Emily Chow 編集:Tony Munroe、Clarence Fernandez、久保信博)

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