ニュース速報
ビジネス

アングル:円急騰の裏には誰が、深読みする市場 介入の疑心くすぶる

2024年07月25日(木)16時56分

 7月25日、外為市場ではこの2週間、歴史的な円安から一転して円買いが進んでいる。写真は円紙幣。2017年6月撮影(2024年 ロイター/Thomas White)

Shinji Kitamura

[東京 25日 ロイター] - 外為市場ではこの2週間、歴史的な円安から一転して円買いが進んでいる。日米金利差の縮小観測を材料に、投機筋が過去最大規模の円売りポジションを巻き戻しているため、との見立てが多い。

こうした中、政府・日銀による「小規模・小刻みな円買い介入」の可能性を意識する参加者もいる。現実性には疑問符がつくものの、一方的な円高進行でそれだけ市場心理が揺れている証しともいえ、目先は思惑が増幅する形で、円の戻り高値を試す展開になりそうだ。

<米CPIと介入、円売りドミノ倒しの様相>

161円台と38年ぶり高値圏を推移していたドル/円が急変したのは、7月11日の海外市場。米消費者物価指数(CPI)が予想を下回り、ドル/円が下落する中で円買い介入と見られる巨額売りが下げを加速し、157円台まで1日で4円を超える急落となった。

この円の急伸が、積み上がっていた円売りポジションを相次ぎ飲み込み、大規模な巻き戻しに発展する。その過程では、トランプ前大統領が「円安」と名指ししてドル高に不快感を示した、自民党の茂木敏充幹事長が利上げに言及したといった報道、日経平均の大幅な下げなどが「円の買い戻しにさらなる口実を与えた」(トレイダーズ証券市場部長の井口喜雄氏)という。

円買いが活発化する土壌は十分に整っていた。米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめたIMM通貨先物の非商業部門の取組状況によると、投機の円売りは今月に入り、2007年に記録した過去最大に匹敵する水準まで積み上がっていた。

ドルは25日の東京市場で152円台まで下落し、2か月半ぶり安値を更新した。金利差収入を狙う円キャリートレードに伴う円売りは対米ドル以外にも広がっていたため、巻き戻しも広範で、豪ドルは3カ月ぶり、ユーロが2カ月半ぶり、英ポンドとスイスフランが2カ月ぶりの安値を相次ぎ更新した。

<「介入ではないと言い切れない」>

参加者の間でもうひとつ、円買いを誘う要因としてささやかれているのが、継続的な円買い介入への思惑だ。

直近では、日銀当座預金残高に介入と見られる大きな変動があったのは7月11日と12日の2日間のみだが、それ以外で「小規模の介入が行われていないとは言い切れない」(国内銀関係者)との見方がくすぶる。

介入がその後も行われているような形跡は、現在の市場には見当たらない。それでも払しょくされない疑念の根底には、特段の手掛かりがない中で、円高圧力が突発的に高まる局面が多いことがある。特に今週は、東京市場の日中に材料が見当たらないまま、円がじり高となるケースが少なくない。持ち高調整か小口の介入か、背景不明の変動そのものが、市場に不安心理を与えている。

同時に、介入の陣頭指揮にあたる神田真人財務官が「市場の裏をかく巧妙な手法」(外銀幹部)で動いていると見られることも、多くの参加者の疑心を焚きつけている要因だ。これまでの介入と見られる動きは、ロンドン、ニューヨークと市場も時間もいとわず、経済指標の発表直後から円相場に値動きがない最中まで、タイミングもさまざまだった。

日本総研調査部副主任研究員の松田健太郎氏は、神田財務官の介入手法は不規則で予測しづらいケースが多いと評する。そのため「例えばきょうも手掛かりに乏しい中で円高が進行しており、小口の介入は可能性としてあり得る」といい、「そもそも、市場参加者にそう思わせることに成功している時点で、当局は目的を達成しているとも言える」と話している。

現在はブラジルで主要7カ国(G7)財務相・中銀総裁会議、20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議が開催中だが、こうしたイベント中でも介入実施の障害にはならない、との声も市場で出ている。

(基太村真司 編集:橋本浩)

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅反発、初の4万9000円 政局不透明

ワールド

独政府、F35戦闘機15機追加発注を計画と関係筋 

ワールド

中国レアアース磁石輸出、9月は6%減少 回復途切れ

ビジネス

物価目標はおおむね達成、追加利上げへ「機熟した」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中