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日銀、政策修正へ春闘が決め手に 市場織り込みも安心感=3月会合意見

2024年03月28日(木)11時09分

日銀が18―19日に開催した金融政策決定会合では、賃金と物価の好循環を確認する上で春闘の1次集計などが決め手となり、政策修正に踏み切るべきだとの意見が出ていたことが明らかになった。写真は、2024年3月19日に本店で会見する日銀の植田総裁。(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Takahiko Wada

[東京 28日 ロイター] - 日銀が18―19日に開催した金融政策決定会合では、賃金と物価の好循環を確認する上で春闘の1次集計などが決め手となり政策修正に踏み切るべきだとの意見が出ていたことが明らかになった。日銀が事前に「マイナス金利解除後も緩和的な金融環境が続く」との情報発信を強め市場が織り込んだことで、政策修正を決定しても混乱は生じにくいとの読みも後押した。追加利上げについては、経済・物価情勢をみながら「ゆっくりと着実に」進めていくのが適切との意見があった。

日銀が28日、決定会合で出された主な意見を公表した。同会合では、マイナス金利の解除やイールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃を賛成多数で決定。上場投資信託(ETF)の新規買い入れも終了することを決めた。

委員からは「本年の賃上げが象徴的な変化として確認された」として、「市場機能に副作用を及ぼしてきた政策対応を見直し、市場が自律的に機能する局面への転換が必要だ」との意見が出た。予想を上回る春闘での賃上げに加え、株価の史上最高値更新もあり「日本経済は歴史的な変曲点を迎えている可能性がある」との声もあった。

ある委員は、長期金利が安定して推移していることやこれまでの情報発信によって、「仮にマイナス金利政策を解除しても当面緩和的な金融環境が維持される」という理解が市場に浸透していることなどから、「今回の措置によって金融市場で大きな変動が起こる可能性は低い」と述べた。「異次元の金融緩和から言わば普通の金融緩和に移行することは、短期的なショックを起こさずに十分可能だ」との意見もみられた。

日銀は1月の決定会合で、政策修正のあり方を詳細に議論していた。その上で、政策修正を行うとしても、現時点での経済・物価見通しを前提にすれば緩和的な金融環境は継続する可能性が高いことなどを総裁会見などで対外発信していくことが重要だと申し合わせていた。

長期国債やCP・社債の買い入れについては「大幅・急激な市場変動を避ける観点から、時間をかけて対応することが適当だ」との声が出ていた。この委員は、その間に債券市場の参加者拡大を期待すると述べた。

ある委員は国債買い入れについて、実際には市場調節の担当部署が市場の状況に応じて柔軟に決めていく必要があり、例えば1―2兆円程度、「上下に多少のアローワンス(許容)」をもって対応していくことが適当だと指摘した。

同会合では、短期金利中心の政策枠組みへの移行に中村豊明審議委員と野口旭審議委員が反対した。「主な意見」では、両委員のものとみられる意見とは別に「今回の政策変更により、経済実態を反映しない形で先々の政策変更期待が高まり、金融環境が急変した場合、好循環のモメンタムに水を差し、物価目標の達成を遅らせるリスクがある」との意見も出ていた。

<金融正常化、「ゆっくりと着実に」>

今後の政策運営については「経済・物価情勢に応じて、時間をかけてゆっくりと、しかし着実に金融正常化を進め、異例の大規模金融緩和を上手に手仕舞いしていくためには、これからの金融政策の手綱さばきがきわめて重要だ」との意見が出された。

田村直樹審議委員は27日の青森県金融経済懇談会で、同様の発言をしている。

今回の金融政策の枠組みの見直しが「金融引き締めへのレジーム転換ではなく、あくまで物価目標の実現に向けた取り組みの一環である点を、各種コミュニケーションによって明確に伝えていくことが重要だ」との意見もあった。

<財務省出席者「引き続き政府と連携を」>

会合では財務省からの出席者が、政策修正について「引き続き、日銀が2%の物価目標の持続的・安定的な達成を目指すためのものと受け止めている」と述べた。日銀が緩和的な金融環境を維持するとしていることに触れ「引き続き、政府との緊密な連携のもと、2%物価目標の持続的・安定的な実現に向けて適切に金融政策運営が行われることを期待する」と発言した。

内閣府の出席者は「賃金と物価の好循環の実現という前向きな動きを踏まえたもので、その認識は政府も共有できる」と述べたほか、経済の回復をより強固にし、民需主導の持続的成長を実現するために「日銀には引き続き、金融面から経済をしっかり支えていただく必要がある」と指摘した。

(和田崇彦 編集:田中志保)

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