ニュース速報
ビジネス

焦点:ECBと市場を「和解」させたシュナーベル専務理事、早速控える次の闘い

2023年12月06日(水)10時50分

欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル専務理事による発言で、長い間ECBの利上げ打ち止めを予想してきた投資家とECBはついに和解の時を迎えた。ただ同時に、市場とECBの間では最初の利下げ時期を巡る新たな綱引きが始まりそうだ。写真はフランクフルトで2019年11月撮影(2023年 ロイター/Ralph Orlowski)

Francesco Canepa Balazs Koranyi

[フランクフルト 5日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル専務理事による発言で、長い間ECBの利上げ打ち止めを予想してきた投資家とECBはついに和解の時を迎えた。ただ同時に、市場とECBの間では最初の利下げ時期を巡る新たな綱引きが始まりそうだ。

ECBの有力なタカ派と目されているシュナーベル氏はロイターの単独インタビューに応じ、インフレ率が「顕著に」低下しているため、追加利上げを選択肢から外すことは可能だとの見解を示した。14日のECB定例理事会を控え、幹部らが公の発言を控えるブラックアウト期間に入る直前のインタビューとなった。

同氏はまた、政策金利を来年半ばまで過去最高水準に維持すべきだという、他のECB理事らの発言を繰り返すことを避けた。その代わりに同氏が語ったのは、政策担当者らは手掛かりを得るために今後の経済データに注目し、拙速にインフレ退治の勝利宣言をすることには慎重になるだろう、ということだった。

ここ数週間、ラガルデECB総裁や一部の理事は、物価・与信統計の弱さに対応してECBが来春にも利下げを実施するという市場の観測を抑えるよう努めてきたが、観測は収まっていない。

レッドバーン・アトランティックのチーフエコノミスト、メリッサ・デービーズ氏は、シュナーベル専務理事のような「介入」が必要だったと指摘。「彼女(シュナーベル氏)が市場に言っているのは、『あなたがたの読みは正しい線を行っているが、春の利下げに賭けるのは行き過ぎだ』ということだ」と語った。

ただ、トレーダーは正にそうした予想に賭けている。

市場は今、予想される利下げ時期を4月から3月に前倒しするとともに、来年12月までに合計140ベーシスポイント(bp)の利下げが実施されることを織り込んでいる。利下げの時期とスピードを巡るECBと市場とのかい離は広がるばかりだ。

HSBCのシニア欧州エコノミスト、ファビオ・バルボーニ氏は「彼女(シュナーベル氏)が、現在の市場の見方にお墨付きを与えたと結論付けてはならないと思う。一部の人々は、彼女の発言を拡大解釈している危険がある」と話した。

シュナーベル専務理事は、保守派理事の中で最も強い影響力を持っているとみられており、その発言には重みがある。

もっともシュナーベル氏は、ECBは市場よりも慎重になり、石橋を叩いて渡るべきだと明言し、ECBとしての基本姿勢を説明している。

<春の利下げが難しい理由>

エコノミストらは、ECBが4月かそれ以降まで金利を据え置くと考えられる理由をいくつも挙げている。

第1に、政策担当者らは賃金交渉の妥結データを見極めたいはずだが、完全なデータは春まで入手できない。

第2に、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)に基づき購入した1兆7000億ユーロ(1兆8400億ドル)の債券について、今後の取り扱いを決める必要がある。

ECBは現在、満期を迎えた債券の償還金の再投資を2024年末まで続けると約束している。この期日を前倒しする可能性は高いが、債券市場を混乱させないよう、再投資の中止は段階的に進める必要があるだろう。

ダンスケ・バンクのECB担当ディレクター、ピエット・ハイネス・クリスチャンセン氏は「再投資を続けながら利下げすることは無理だ」と指摘し、最初の利下げは6月になるという従来予想を維持すると述べた。

最後に、ECBは春ごろ、今後数年間の市中銀行への資金供給方法を巡る検討作業の真最中になるだろう。貸し出しの形にするのか、それとも債券を購入するのかといった複雑な問題であり、政策担当者は時間とエネルギーを消耗することになる。

レッドバーン・アトランティックのデービーズ氏は「春には多くの事があり過ぎて、利下げも同時に行うのは難しい」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドネシアFDI、第3四半期は前年比-8.95%

ビジネス

川崎重と独タウルス社、技術協力を検討 巡航ミサイル

ワールド

英政府、中国大使館建設計画巡る決定を再び延期 12

ビジネス

米銀、アルゼンチン向け200億ドル融資巡り米財務省
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中