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焦点:ドル調達コストが急騰、日銀緩和由来の「円のバーゲン」で

2016年09月30日(金)19時32分

9月30日、為替スワップ経由のドル調達コストが、日銀緩和を受けた「円のバーゲン」で2009年2月以来の高水準に達している。2013年2月撮影(2016年 ロイター)

[東京 30日 ロイター] - 為替スワップ経由のドル調達コストが、2009年2月以来の高水準に達している。日銀が「量的緩和」の看板を完全に降ろさない一方で、マイナス金利の深掘りを示唆する中、日銀発の「円のバーゲンセール」が進む格好でドル調達コストが上昇している。

期間1年未満が主体の為替スワップ取引では、年末をカバーする3カ月物の円投/ドル転コスト(ドル調達コスト)が29日、173ベーシスポイント(bp)と2009年2月以来、7年7カ月ぶりの水準まで急騰した。28日の同コストは154.50bpだった。

  <円のバーゲンセールとドル調達コスト>

ドル調達コストが数年ぶりの高水準となった根本的な背景には、日銀の量的・質的金融緩和(QQE)がある。

9月21日の金融政策決定会合において、日銀はマネタリーベース目標をあいまい化させ、長短金利操作付きQQEにシフトした。

しかし、「量」の看板を完全に降ろすことはせず、「インフレ率が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースを拡大させる」と宣言し直した。

「金利ターゲットでありながら、量へのコミットメントも残すという屋上屋を架すような政策となってしまった」(東短リサーチ・チーフエコノミストの加藤出氏)との評価が市場では少なくない。

日銀の黒田東彦総裁は30日、衆院予算委での答弁で、マネタリーベースは今後、増加し続け、場合によっては増加ペースの加速もあり得るとの見解を示した。

こうした日銀の姿勢は、真意はどうあれ、国際金融取引において「円の過剰感」を際立たせ、「円ディスカウント」として本邦勢のドル調達コストの上昇要因となっている。

ある海外金融機関のマネートレーダーは「日本の過剰な緩和により、現在は円がバーゲンセールになっている状況だ。1990年代後半はドルプレミアムがドル調達コスト上昇の主因だったが、今は円ディスカウント。価値が希薄な円でドルを調達しようとしてコスト増を招いている」との指摘が出ている。

ただし、円のバーゲンセールは、円相場の持続的な減価をもたらさなかった一方で、ドル/円スワップで需給バランスに影響を及ぼした。

「日米ともに量的緩和(QE)で、ドルも円もジャブジャブだったころは、ベーシスはそれほど拡大していなかった」と、SMBC日興証券・為替外債ストラテジストの野地慎氏は言う。

ベーシスとは、スワップ取引において日米金利差に上乗せされるコストで、均衡価格からの乖離。

しかし、ベーシスは2014年10月に米連邦準備理事会(FRB)がQE終了を決定し、日銀が年60―70兆円のペースで増やすとしていたマネタリーベースを、約80兆円まで拡大するQQE拡大を決定したころから、明確な上昇傾向に入った。

14年10月にベーシスは30bp台で、ベーシス込みの円投/ドル転コストは50bp台だった。

その後、マネタリーベースの増加に合わせてベーシスは徐々に拡大し、目下85bp程度、円投/ドル転コストは170bp台まで上昇した。

この間、マネタリーベースは250兆円から、413兆円まで急激に拡大している。

日銀の量的・質的金融緩和の当初の政策の狙いは、円金利商品の利回り低下を促し、外貨やリスク資産への資金シフトを促すことだった。

このいわゆるポートフォリオリバランス効果により、過去最高のペースで本邦勢は対外証券投資や直接投資を行ったが、ドル調達コスト(ヘッジコスト)の上昇により、その対外投資の採算性は悪化している。

現在の1.7%近傍のドル調達コストは、1.54%付近の米10年国債利回りを大幅に上回っている。

<欧州金融セクターの信用リスク>

円の希釈化を背景に上昇する円投/ドル転コストに対して、ユーロ投/ドル転コストは、主に信用リスクを背景とする上昇が目立ち始めた。

ユーロ投/ドル転スワップの3カ月物ベーシスは目下62bp付近と、2カ月ぶり高水準に達している。

ドイツの大手銀行の株価が下げ止まらない中、29日の米国株式市場では金融株が売り込まれるなど、金融システム不安が徐々に広がりを見せている。

3カ月物ドルLIBOR(ロンドン銀行間金利)は29日に0.84561%と直近のピークから若干低下したものの、依然として7年4カ月ぶりの高水準にある。

為替スワップの原資産であるドルLIBORに高止まりや上昇余地がある中で、日銀がマイナス金利の深掘りを実施すれば、同じく原資産である円LIBORのマイナス幅拡大が見込まれ、この結果、当然本邦勢のドル調達コストは一段と上昇する。

(森佳子 編集:田巻一彦)

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