コラム

民主党を救うただ1つの方法

2010年03月29日(月)17時46分

 鳩山内閣のひどいありさまを見ているうちに、ふと思い出して、このブログのバックナンバーを調べてみた。昨年5月、鳩山由紀夫が当時まだ野党だった民主党の代表に選ばれたときに書いた記事が見つかった。

 私はその『鳩山が勝てない「お坊ちゃま戦争」』という記事で、鳩山の優柔不断さを指摘。民主党が小沢一郎前代表(現幹事長)に代わるとして鳩山を担ぐことの危うさを強調した。


 首相になれば、鳩山は党内の結束を維持し、連立政権を組む小政党をうまく扱い、頑固な官僚たちに言うことを聞かせなくてはならない。豪腕小沢をもってしても簡単な仕事ではない。鳩山にその役割が務まるだろうか。


 最後の問いに対する答えは、ノーに見える。

 普天間問題や郵政問題などの難問に取り組もうとしたことを批判するつもりはない。このような難しい問題で変革の姿勢を打ち出せば、内閣主導の政治とはどういうものかを印象付け、選挙で民意を問うことの意義を高められる。

 しかし、鳩山が内閣と与党をまったくと言っていいほど統制していないことは問題だ。そのおかげで、普天間問題や郵政問題は迷走し、内閣の支持率は悲惨な水準まで落ち込んでいる。

 普天間問題でアメリカ政府に厳しい姿勢で臨もうと思えば、巧妙で慎重な振る舞いと明確なメディア戦略が欠かせないはずだ。それなのに、鳩山は普天間問題で閣僚たちに一貫したメッセ−ジに沿って発言させるどころか、そもそもメッセージを打ち出せていない。

■普天間次第で「鳩山降ろし」へ

 鳩山政権の指導力の欠如は、鳩山首相個人の失態というより、民主党内や連立与党間の亀裂が原因だという見方もあるだろう。しかし、鳩山自身が指導力を発揮できれば、民主党内や連立与党間の不協和音はおそらく問題にならないと私は思う。

 一部の閣僚(はっきり言えば金融・郵政改革担当相の亀井静香のことだが)は政権発足以来、首相の指導力欠如につけ込んできた。もし鳩山が力を行使できれば、もっとすんなりと閣僚に言うことをきかせ、小沢幹事長の影響力をはね返せたに違いない。

 では、民主党内の反小沢・鳩山勢力の実力者たちはどうしてほぼ沈黙したままなのか。政治アナリストのマイケル・キューセックが言うように、7月の参院選で民主党が負けたほうがその後に党の主導を握りやすいという思惑が働いているのかもしれない(大人しくしていれば、もし選挙で民主党が勝っても自分の地位を守れるという計算もあるだろう)。

 ただし、この戦略には大きな危険が伴う。日本の有権者は、参院選になるとかなり極端な行動を取る場合がある。民主党が大敗を喫して、首相と党執行部の交替では済まなくなる可能性もある。

 そう考えると、鳩山が普天間問題ですべての当事者を満足させる解決策を見いだせなければ、民主党内や閣内で鳩山降ろしの機運が高まるのではないかと思う。

 首相が交替しても、参院選を勝利に導くのは簡単でない。それでも、明確な針路を示し、党内と閣内の意見を一本化できれば、民主党の選挙見通しはましになるはずだ。せめて閣僚が好き勝手に発言するのをやめさせるだけでも、結果は違ってくるだろう。

 小泉純一郎元首相が高い人気を誇ったことからも分かるように、国民は指導者に「ものごとを成し遂げる力」を求めている。いま民主党が窮地を脱するためには、そうした国民のニーズに応える以外にない。

[日本時間2010年3月26日11時59分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story