コラム

小沢問題の見えない出口戦略

2010年02月08日(月)17時10分

 2月4日、民主党の小沢一郎幹事長は自身の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる問題で東京地検特捜部による起訴を免れた。一方で、石川知裕衆院議員を含む小沢の元秘書ら3人は政治資金規正法違反(虚偽記載)で起訴された。

 政治アナリストのマイケル・キューセックが指摘するように、東京地検がまるでとりつかれたように小沢を追い詰めようとする様は見苦しい。さらにたちが悪いのは、鳩山政権を裏で操つる腹黒い怪物のように小沢を仕立てるメディアだ。

 しかし、小沢の不起訴を鳩山首相や民主党の勝利と捉えることはできない。同時に私は、小沢が幹事長を降りるほうが民主党にとってはいいのではないかと考えずにはいられない。小沢がいる限り、おそらくメディアは民主党が何をしようが「小沢関連の話」として語り続けるからだ。

 では鳩山政権、小沢、そして民主党は今後どうすべきか。民主党に同情的な北海道大学の山口二郎教授(行政学)は、政治改革の行方と日本人の民主政治への希望はいま瀬戸際で揺れていると指摘する。小沢は「自ら進んで国会や公開の場に出て、あらゆる質問に対して自らの言葉で答える」べきだと、山口は言う。

 小沢はこれを実行できるだろうか。鳩山を始めとする民主党幹部らの力では、小沢を動かせないことは明らかだ。少なくとも小沢は自分を抑え、首相と対等ではなく(上でもなく)部下として振舞わなければならない。

■鳩山首相に迫るタイムリミット

 同時に、鳩山政権はメディアを通して自分たちを国民にどう伝えるかを根本的に考え直す必要がある。事実がおのずと明らかになるのを待つ時期は終わった。そもそも政府に関する事実がおのずと明らかになることはない。

 鳩山政権は自分たちの考えや立場を積極的に伝える努力を始めなければならない。その結果生まれるのが新しい幹事長なのか、メディア対策チームなのか、それとも他の対策なのかは政府次第だが、いずれにせよ現行の手法は機能していない。そして鳩山はそろそろ政治指導力を発揮し始めるか、でなければ辞任する必要がある。

 どんなに選挙手腕に長けていても、どんなに熱心な改革者でも、小沢というお荷物は民主党政権を危険にさらしている。さらには日本政治の未来を危険にさらし、日本人の政治不信をいっそう煽りかねない。

 鳩山政権のジレンマを解消する答えなど簡単には見つからない。小沢を降ろせば、地方の民主党幹部が頼りにする選挙の達人を失うことになる。小沢を残せば、鳩山の力不足というイメージは拭えず、メディアは小沢のスキャンダルをネタに騒ぎ続けるだろう。

 私が恐れているのは、鳩山にはこのジレンマを解消し、自分の政権を守る力がないのではないかということだ。

[日本時間2010年02月06日(土)10時05分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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